Q3 日本株をめぐり国内勢と海外勢に温度差は?足元の日本株に過熱感は?

牧野氏
確かに日本株は連日にわたりバブル後の最高値を更新したので、過熱している印象を受けるかもしれません。しかし、1987年10月の株価大暴落(ブラックマンデー)以降のNYダウ平均と日経平均を比べた場合、チャートで見れば一目瞭然ですが、上昇の勢いはダウ平均の圧勝です。今後、日本企業が一層しっかりとした企業価値の創出ができるのであれば、それに即して株価の上昇が続く可能性が高いと思います。まだ他国企業に比べると割安感が強く、そういった比較で年初から海外の投資家が日本株への投資に向かっているとみています。

一方で国内勢の動きでは、特に長期の資産運用を担う年金基金(その中でも私的年金基金)は、過去一貫して日本株のエクスポージャー(資産割合)を減らしてきました。それが影響してか、日本株に対する見方が長らく弱気のままでした。ここにきて昨年来、日本取引所グループが市場構造改革を通じてさまざまな施策を行う中で、「PBR1倍」という言葉がクローズアップされるようになりました。裏を返せば、財務上の価値が100%株価に反映されている銘柄が評価されてしかるべきなのに、日本の場合は財務価値を下回るPBR1倍以下の企業があまりにも多すぎました。そういう非効率経営に改善を促すと同時に、各上場企業が努力することで大きく市場が変わっていく流れを投資家がつかんでいく中で、インデックスも含めて株価が上昇しているのが現状です。

ちなみに、「株式市場が死んだ」とさえ言われた米国の70年代から80年代は、いま転換を促されている日本の状況と似ています。当時の米国は生産設備など有形資産の評価が高い伝統的な会社が市場を主導していました。ところが米国では90年代以降、こんにちのS&P500を見れば明らかなように、企業価値では有形資産以上に無形資産が評価されるようになっています。日本でも今後、企業価値のあり方の変化を分析しながら投資が進んでいくでしょうし、国内投資家と海外投資家の動向に大きな差は生まれなくなるとみています。特に日本の投資家は、内外株式の水準や自国の為替レートの状況、経済を取り巻く環境の変革などを踏まえながら、改めて日本株を見直す機運が出てくる可能性があると思います。

 

牧野義之氏
2008年5月、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス 日本オフィスに入社。2009年より同社の営業を主管。2010年8月、同社日本オフィス統括となり、日本におけるインデックスビジネスの拡大やETF市場の拡大等に尽力した。2021年9月末同社を定年退職。2022年4月1日より、株式会社JPX総研 エグゼクティブアドバイザー就任。内外のインデックスビジネスやパッシブ運用に関する動向についての情報収集を担当。
2022年10月より、株式会社想研の次世代アセット・インサイト2030の創設に際して、同企画のアンバサダーに就任した。S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス入社前は、ソシエテ・ジェネラル傘下のリクソー・アセット、アクサ・ローゼンバーグ(現アクサ・インベストメント・マネージャーズ)、フランクリン・テンプルトン等の日本法人で年金基金など機関投資家を主とした営業の責任者等を務める。さらに、山一證券勤務時代は、支店法人営業、香港現地法人、インドネシア合弁会社、本社国際企画部にて営業並びに企画業務を担当。