任意後見、家族信託、遺言…認知症への備えが資産寿命を延ばす
父は幸い認知症にはなりませんでしたが、母についてはそろそろ認知症の備えが必要ではないかと考えています。離れて暮らしているので、できるだけ連絡は取り合うようにし、様子を確認しています。介護認定は要支援ですが、それでも地元の地域包括支援センターにつながっていることは安心につながります。父から受け継いだ財産目録は、あらためて筆者が書き出し、母にも分かりやすいように作り替えました。
母の収入は遺族年金と老齢年金が中心です。高齢者施設に入居しているので、月々の支払いは年金でまかないます。お小遣いとして、月に使える予算を母に伝えており、毎月その金額を預金から引き出して使っているようです。それでも贅沢をしたらいけないのではないかと心配になるようで、「手芸教室に行きたいのだけれど、材料費を払ったらお金が足りなくなるのではないか」と電話をかけてくることがあります。筆者はそのつど「大丈夫、毛糸を思いっきり買っても150歳まで生きられるよ」ということにしています。
母の預金は、近くに住む弟が代理人カードを申請して、日々のお金は母が出歩けなくなったとしても引き出しができるようにしています。認知能力の衰えが心配になったら早々に任意後見人の契約を結ぶ予定です。任意後見人を立てていれば、認知症になっても母のために財産をスムーズに使ってあげることができます。
実際周りが気がつかないうちに認知症になってしまっていては、本当に大変です。まず財産が凍結されてしまいます。保険に入っていても解約できませんし、預金からお金をおろすことすらできません。家を売却して施設に入ろうとしても、契約ごとは一切認められなくなります。
よく話題になる法定後見は、認知能力がすでになくなってしまった方に対して、その後の権利擁護をする仕組みですが、残念ながらこれでは十分なことができません。なぜならば認知能力がもうないのですから、その人の想いを何一つ伝えられないからです。後見をされている方は、一生懸命その方の利益のために動いてくれる訳ですが、それでも限界はあるはずなので、やはり元気なうちにお願いするべきことはお願いしておくべきです。任意後見人は家族もなれるので、早めに専門家に相談して正式な手続きをしておくと良いでしょう。
例えば財産として不動産があるなどという方は、それに加え家族信託を利用することも可能です。いずれにしても、認知症になる前に対策をとっておく必要があるので、まだ大丈夫と思わずに行動を起こしましょう。
また全ての方に遺言の作成も有効です。特に、お子さんがいない方、事実婚の方、身寄りのない方など、今すぐにでもこれからのことを考えておく必要があるでしょう。相続税の支払いが発生する方はもちろんですが、せっかく親御さんが作った財産を次の世代にスムーズに引き継ぐためにも遺言はもっとも有効な手段です。
50代にとって自分の老後を考えるのは、「まだ少し早い」と感じられる方も多いでしょう。だからこそ、まずは親とか身近な高齢者の暮らしを気にして見てあげてください。その上で、いろいろな課題が見えるはずです。そこで、介護の申請はどうなのか、施設とはどういうものがあるのか、お金の管理は、相続は……などと考えることが良いシミュレーションになるのではないかと思います。そしてそのような時間を持つことが、自分にゆかりのある高齢者からの最期の学びの場になるのではと思います。
資産寿命を延ばす方法は、なにも運用だけではありません。周りの方との関係性を良くする、そのためには自分からの働きかけも重要でしょう。これからの生き方、幸せに過ごしたいですね。