証券業界に打撃を与えた「手数料」問題
しかし、一方で証券業界には大きな問題があります。昨年8月、SBI証券が実施した株式委託手数料のほぼ全面的な無料化によって、証券会社の経営が一段と苦しくなる恐れがあることです。同レポートでも、「2024年を見通す上では、『ゼロ化』の影響をどう捉えるかがポイントになるだろう」と指摘しています。
株式委託手数料は1998年の大幅な金融自由化によって、完全に自由化されました。同時にインターネット環境が広まったことでインターネット証券会社が台頭し、株式委託手数料の引き下げ競争が激化しました。
その手数料がいよいよゼロになるのと同時に、投資信託の購入時手数料、信託報酬率も大幅に低下しています。こうなると、対個人での株式の売買仲介や、投資信託の販売業務では、証券会社に収益が落ちなくなります。
廃業or業態転換を迫られる地場証券会社
こうした動きが証券会社の経営に与える影響は、非常に大きいものになるでしょう。特に地場証券会社と言われる、地元に根を張って営業している証券会社にとっては、死活問題になります。
今は高齢になった昔からのひいき客によって、多少なりとも収益を得られていても、その子供たちの世代は、もはや地元の地場証券会社を通じて株式や投資信託を買うことはないでしょう。大半はインターネット証券のはずです。
つまり地方の地場証券会社にとっては、廃業するか、それとも別の業態に転換させるかの二択になります。
廃業以外の選択肢は、同レポートで指摘されているように、証券会社から金融商品仲介業者への業態転換です。すでに一部の中小証券会社が、金融商品仲介業者への業態転換を図っています。地方の地場証券会社を中心にして、今後、この手の動きが広まってくる可能性はあります。
富裕層特化をねらう大手証券会社
大手証券会社もうかうかしてはいられません。すでに一部の大手証券会社には、リテール取引を富裕層に限定する動きが見られます。恐らく、この傾向は一段と強まっていくでしょう。大手証券会社が持っている顧客層からすると、リテール取引を今後も続けるのだとしたら、富裕層を相手にするしかありません。富裕層を相手に、ラップ口座を契約させ、ファイナンシャルアドバイザーという名の営業担当者をつけて、アドバイスフィーを稼ぐというビジネスモデルです。
このように、証券業界のリテールビジネスを俯瞰(ふかん)すると、大手証券会社は富裕層に特化していくでしょうし、地方の地場証券会社は、金融商品仲介業者に業態転換を図るという流れが見えてきます。