顧客の世代交代で変わるリテールビジネスの構図

とはいえ、大手証券会社にしても地場証券会社にしても、問題は現在、対面での取引を行っている高齢者層が亡くなり、その子供たちに相続が生じた時です。

特に地方の地場証券会社の場合、地元に子供はおらず、都内など大都市圏で生活基盤を持っている可能性がありますから、そうなると口座が解約されて、資金流出につながる恐れがあります。

今後、世代交代が生じた時、一番大変なのは、地方の地場証券会社でしょう。地方の地場証券会社は、たとえ金融商品仲介業者に業態転換したとしても、存続が非常に厳しくなると思われます。

もう1つ、厳しい経営環境にさらされるのがインターネット証券会社です。恐らくリテール取引で生き残れるインターネット証券会社は、2社程度になるのではないでしょうか。圧倒的な個人の取引口座を持ち、かつ金融商品仲介業者にプラットホーム機能を提供しているようなところは、まだ生き残れる可能性があります。

しかし、リテール取引のシェアで劣勢にあるインターネット証券会社は、マネックス証券がNTTドコモに譲渡されたように、独自資本での生き残りが極めて難しくなりそうです。

このように証券業界を取り巻く状況を俯瞰すると、個人が直接証券取引で関わる証券会社の業態は、大きく変わらざるを得ないでしょう。

従来、大手証券会社と言えば全国の主要駅前に大きな支店を構えていたものですが、それを維持すること自体が難しくなるでしょうし、小口のリテール顧客はますます相手にしてもらえなくなるでしょう。

金融商品仲介業者も、収益構造から考えると、小口客ばかりを集めていたのでは商売になりません。地方であれば、地元の名士など富裕層を主要ターゲットにするのは目に見えています。

小口のリテール客は、現時点で「勝ち組」と見られているインターネット証券会社に集約され、富裕層は大手証券会社と金融商品仲介業者の間で顧客獲得競争が激化する、そんなリテールビジネスの構図が見て取れます。2024年は新NISA元年であるのと同時に、証券ビジネスに一大変化が生じる、そんな年になりそうです。

参考ページ
・野村総合研究所「金融ITフォーカス2024年1月号 2024年のリテール証券業界の展望」