野村総合研究所金融デジタルビジネスリサーチ部が、金融ITフォーカス2024年1月号で「2024年のリテール証券業界の展望」というレポートを出しました。
これは、証券ビジネスに関わっている人たちはもちろん必読ですが、同時に証券会社を通じて資産形成・資産運用をしている人たちにとっても、一読の価値があると思います。自分の資産を預けている証券会社が今後、大きく業態を変えていくかもしれないのですから。
株式市場を取り巻くポジティブな要因
同レポートでも指摘していますが、株式市場を取り巻く環境はポジティブです。
この1月から新NISAがスタートしましたし、昨年、PBR1倍割れ企業に対して、東証が資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を求めたことによって、株価が割安水準にあった企業が増配、自社株買いなどの株主還元策を積極化させたことにより、株価は年初から30%近く上昇しました。
さらに、1990年代から長期にわたって続いてきたデフレ経済が、ようやく終わりを告げたと見られていることも、株式市場にとってはポジティブな材料です。
デフレ経済下では、何も運用せず、現金を握りしめておくだけでお金の価値が増えましたが、これからインフレが緩やかながらも定着することになれば、現金を持っているだけでは資産価値が目減りしてしまいます。
政府・日銀は消費者物価指数で2%の上昇率を目標値にしていますが、仮に年2%ずつ物価が持続的に上昇したら、10年で20%程度、お金の価値が目減りすることになります。たとえば今、1万円のものが、10年後には1万2000円になるのです。
では、このようにお金の価値が目減りするリスクを軽減させるためには、どうすれば良いのでしょうか?
その解決方法の1つが「株式投資」です。企業の売上は名目値なので、インフレが進むと、出荷数量が変わらなくても、価格転嫁がしっかり行えるのであれば、インフレ分だけ売上や利益が増えます。株価はこれを評価するため、物価が上昇すると株価も値上がりする可能性が高まります。そのため、株式を保有することによって、インフレリスクをヘッジできると考えられているのです。
デフレ経済からインフレ経済に転換したなかで、現預金だけで資産を保有すると、資産価値は毀損(きそん)します。こうした認識が広まれば、今は現金・預金に偏っている個人金融資産の一部が、株式市場にシフトする可能性が十分にあります。
こうした点を考えると、確かに証券会社を取り巻くビジネス環境は、好転していると考えられます。