金庫株1兆3500億円 キヤノンが自社株を消却しない理由

キヤノンは金庫株を多く抱えることでも知られます。金庫株とは取得した自己株式のうち、消却せずに保有するものです。

キヤノンは2023年の5月と6月にも自社株買いを実施しました。取得総額は1000億円、総発行株式の2%に相当する277万株を取得しています。キヤノンが保有する自己株式は2023年9月末で1兆3583億円にも上りました。

自己株式の消却では一般に利益剰余金などが取り崩されますが、キヤノンの利益剰余金は3兆7823億円(2023年9月末)まで積み上がっています。なぜキヤノンは自己株式を消却せず金庫株として保有するのでしょうか。

【自己株式と利益剰余金の推移(2017年度~2023年度)】

出所:キヤノン 業績推移データおよび決算短信より著者作成

キヤノンの金庫株の保有はM&Aを想定しているためだと考えられます。

2023年5月と6月の自社株買いでは実施理由に株式交換を挙げました。株式交換とは完全子会社化を行う方法の一つです。取得する会社の株主に、対価として親会社の株式を割り当てて実施します。例えばキヤノンがA社を買収する場合、A社株主にキヤノン株式を割り当てます。

キヤノンはM&Aで成長してきた企業でもあります。重点領域と考えるネットワークカメラやメディカル事業はいずれも買収で取得したものでした。今後も機動的なM&Aを実施するとしており、金庫株はその原資と考えているとみられます。

もっとも株式交換は対価に現金を用いることもできます。これを踏まえれば、キヤノンは単に現金より自己株式で運用した方が効率的と考えている可能性もあるでしょう。

文/若山卓也(わかやまFPサービス)