国内設備投資は、過去最高水準に

人口が減少すると、せっかくの収益チャンスを取り逃がすことにもなりかねません。最近では、日本の観光業がまさにその状況にあります。新型コロナウイルスが5類にダウングレードされ、世の中全体が正常化へと進み、海外からの観光客が大挙して日本に押し寄せているにもかかわらず、宿泊施設で働く人たちが大幅に不足してしまっているのです。

パンデミックによる行動制限期間中、宿泊施設は大幅な人員削減によって危機的な状況を乗り越えようとしました。

その間、宿泊施設を辞めた人たちは他の仕事に移ったわけですが、インバウンドが回復したからといって、再び宿泊業に戻る人は少なく、その結果、7、8割のホテル・旅館が人手不足に陥っているというデータもあります。

ここまで働く人が減ってしまうと、いくらインバウンドによって外国人観光客が増えたからといって、すべてを受け入れることができません。働く人が半分になれば、単純計算でも、半分の宿泊客しか受けられなくなります。それでは、せっかくの収益機会を、みすみす取り逃がすことになってしまいます。

グローバルの視点から見ても、日本のポジションが改めて注目され始めています。グローバルサプライチェーンの見直しによって、これまで中国をはじめとする諸外国にあった生産拠点を、日本に移転させようという動きもあります。それだけ日本の労働力が、国際水準で見て安くなったともいえるのですが、たとえば韓国サムスン電子の横浜半導体開発拠点建設や、台湾の半導体受託製造大手である、台湾積体電路製造(TSMC)の熊本工場建設などは、まさにその一例といってもよいでしょう。

ちなみにTSMCは日本に2カ所目の生産拠点を設ける方向性を打ち出しています。

TSMCは台湾企業なので、中国との地政学リスクの高まりから、生産拠点をグローバルに分散させるという狙いもありますが、いずれにしても日本が生産拠点として再び脚光を集めつつあるのは事実です。

しかし、こうした動きも日本に十分な労働力がなかったら、絵に描いた餅になってしまいます。こうしたなかで、日本が何もせずに手をこまねいていたら、人手不足はますます深刻化し、経済にマイナスの影響が生じてくるでしょう。

だからこそ、人口減少社会のなかでも一定の生産量を確保できるように、DX、AIの導入をはじめとして、設備や人、モノに多額の投資をし、日本企業の生産性を大きく向上させなければならないのです。

とはいえ今、国内の設備投資が90年以来のピーク水準まで拡大していることは心強いことです。一歩、二歩、進み始めているといえましょう。

こういう瀬戸際の中で、Web1.0世代、あるいはWeb2.0世代も、ようやく変わらなければならないという意識を強く持ち始めたのではないかと思うのです。

この流れが強まれば、「少子高齢化、人口減少」といった課題解決の先駆者として、世界をリードし、評価を高めていくことができるでしょう。

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