――2022年末に2万6094円だった日経平均株価が今年の春先から上昇し、8月初旬には3万3000円近辺までつけています。まず、この上昇の要因は何なのでしょうか?
物価が上がり、賃金も上がり「インフレ以外の何物でもない」と認識されたこと、これが日本株上昇の最大の要因です。現に、海外投資家は4月から7月までの間、日本株を合計約6.5兆円買い越しています。著名な投資家であるウォーレン・バフェット氏が大手商社を含めた日本株の追加購入を示唆したのも後押しとなったでしょう。
あとは、「中国リスク」が意識され始めたり、春頃は欧州・米国のインフレ退治が難航していて利上げが続き、欧州・米国は景気後退するかもしれないという見方も強かったですよね。中国や米国、欧州にお金を置いておくよりは日本株のほうが良いという、消去法的な側面もありました。
しかし、今回の株価上昇、それをもたらした海外投資家の「日本買い」の主因はインフレと賃上げだと思います。
消費者の意識に変化、「値上げ」を理解
――しかし生活者の実感からすると、あらゆる物やサービスが値上がりしてしまい、多少給料が上がっても追いつきません。
おっしゃる通りです。ただ、株に投資する観点からすると、値上げで企業の利益が増え、それが株価のプラス要因になるわけで、実質賃金のマイナスを被っている生活者の実感と株価上昇とは必ずしもリンクしていませんね。
しかし、日本の消費者の意識も最近かなり変わってきたように思います。一言で言うと、「値上げ」への理解が進んできたのではないでしょうか。物価が軒並み上がるのは困るけれど、値上げしないと自分の給料も上がらない、結局、家計も苦しくなる……ある程度の値上げは必要だろうと。これは、本当に大きな変化で、長くデフレだった日本が緩やかなインフレ時代に突入するかもしれない、そんな可能性を秘めています。
そのため、2024年の賃上げは要注目です。ここが日本経済や日本株の動向にとって大きな分水嶺になると考えられます。
東証のPBR改善要請も効果
――インフレや賃上げといった日本経済全体の要因のほかに、東京証券取引所による今春の「PBR(株価純資産倍率)改善要請」なども日本株の再評価につながったのではないでしょうか。
そうですね。「PBR1倍割れはノー」という認識は、企業価値を高める動き、ひいては日本株全体の底上げにつながっていくと思います。それに関連する、最近の企業の変化として、前向きに設備投資をしている点が挙げられると思います。もちろん、人手不足対応で“設備投資せざるをえない”側面もありますが、付加価値を高めるための設備投資もさかんになってきました。コストダウン一辺倒でやってきた過去30年間にはなかった動きです。先ほどもお伝えした通り、消費者も値上げの必要性は理解し始めています。しかし、一方で消費者は「単純な値上げは勘弁してほしい」とも思っています。そんな消費者に選ばれるべく、研究開発投資をし、設備投資をして、価格とともに付加価値も高める……ポジティブな循環が出てきたと思います。
自動車、食品、化学素材、半導体がけん引役
――今回の日本株上昇をセクター別にみると、どういった業種がけん引役を担っていたのでしょうか?
まず自動車。昨年までは半導体不足で需要に生産が追いつきませんでしたが、それが緩和されて今は「リベンジ生産」に拍車がかかっています。自動車産業は裾野も広いので、けん引役を期待できます。
次は食品です。コロナ後に宴会需要が戻ってきています。まだ数量では苦戦しているものの、価格転嫁ができて売上高・利益は上向いているところが多いです。
化学素材もエネルギー価格が落ち着いてきたのがプラス要因。半導体関連は中長期的に半導体需要が細ることは考えづらい。波はあるものの業績向上と連動して株価水準は切り上がっていくでしょうね。