「資産活用」とは何をすること?
資産活用という言葉から読者の皆さんが直感的に考えることは、「保有している資産を不動産や有価証券で運用して収益を生むこと」ではないでしょうか。
しかし、繰り返しになりますが、この本で伝えたいのは、それよりももっと包括的で、複雑なものです。保有する資産を有効に使いながらも、どうすればその資産を長持ちさせられるかという視点です。楽しく使って「資産寿命を延ばす」ということです。
「資産寿命を延ばす」というと、例えば保有する資産を少しずつしか使わなければ、資産は長持ちしますから、これも資産活用の対策とみることができます。
では、取り崩す金額を少なくするためには、何が考えられるでしょうか。
すぐに思いつくのは、節約をして生活費の少ない生活にすることで、取り崩す必要金額を少なくすることでしょう。これは保有する資産が多いか少ないかは関係なく、多くの人ができる対策といえます。
しかし、資産をできるだけ使わないようにすることだけが資産活用ではありません。資産活用は「持っている資産を退職後の生活のために有効に使う」ということです。もちろんそれですっきりと腹落ちするわけではありませんね。実際に資産活用を行おうとすると、いろいろ複雑なことが絡まって、それほど簡単ではありません。
例えば、「どうすれば“有効”に使っているといえるのか」「有効だとしても、使ったらなくなるので、やはりできるだけ使わないようにしたいと思う」などと考えると、右往左往してしまいそうです。「有効」というのは個人の感性も影響するので人それぞれでしょう。
ただ、はっきりしていることはせっかくの退職後の人生なのですから、楽しくなければ意味がありません。お金を荒く使うことが楽しいわけではないでしょうから、自分の生活水準を維持しながら心豊かに生活を楽しむことがまずは大前提です。そのうえで、資産がなくならないようにどうするかを考えるべきです。
ちょっと脱線しますが、最近本屋さんに行ってみると、投資やお金の話の本が多く出ていることに気が付きませんか。でもそれらの本の多くはいわゆるノウハウ本で、こうすると「ちょっとしたお得」がありますよ、といったアイデア満載の本です。
それは大切なアングルですが、先にしっかりとしたお金に対する考え方があってこそ、そうしたアイデア、ノウハウが生きてくるように思います。先にアイデアありきでは、どんどん本質から離れていってしまうように思います。
特に「資産活用」は、実は最近広がり始めたばかりの分野なので、まだまだ基礎が理解されていません。しかもこの本で紹介していく通り、より包括的なアプローチですので、そのためノウハウよりも、そもそも退職したらお金とどう向き合うかという「お金との向き合い方」「お金に対する考え方」を知ることがまず重要だと思います。
この本はそうした視座に立って書いていこうと思います。何か方向感とか、指針のようなものは、人それぞれの退職後の人生のあるべき姿を判断するための核となるものと考えています。
第2回【退職金で危険な運用に手を出す人が後を絶たない…その根本的な理由とは】では、具体的に取り崩しの方法に関して、基礎から解説します。
野尻哲史著『60代からの資産「使い切り」法 今ある資産の寿命を伸ばす賢い「取り崩し」の技術』(日本経済新聞出版)
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