大きく変わらざるを得ない“お金の常識”

このように世帯の形が変わると、これまで当たり前としてきた「お金の常識」も大きく変わらざるを得ません。

資産形成は預貯金のみでは不十分

まず、自分の面倒を自分で見るためには、とりもなおさずお金が必要です。1人で住んでいた高齢者が、いよいよ自分の力だけで自立した生活が困難になれば、高齢者施設への入居を考えなければなりません。その時、頼りになるのは、何はともあれ「お金」です。

とはいえ、成熟期に入った日本経済が再び高度経済成長の軌道を描く可能性は極めて低く、当時のように年功序列賃金と終身雇用制度によって、収入増と雇用が保障されているような環境も期待できません。

高い経済成長率が期待できなければ、インフレの期待値も下がるため、金利水準は上がりにくくなります。預貯金のみの運用だけでは、老後に向けて十分な資産形成がおぼつかなくなるでしょう。

今、政府が「貯蓄から資産形成」を掲げ、新NISA制度や確定拠出年金制度の拡充に乗り出しているのは、このような背景があるからです。

不動産の価値は二極化が進んでいる

さて、もう1つ大きなお金の問題があります。それは「家」の問題です。恐らく今も、「家を持って一人前」という価値観を持った人がいると思います。確かに、高度経済成長期から1980年代のバブル経済にかけては、間違った考え方ではありませんでした。

そもそも賃貸住宅の整備が貧弱だったので、多くの人は「結婚したら家を買う」ことを人生の目標に掲げたのです。しかし、これから先は果たして家を買うことが正しいのかどうか、判断しにくいところです。

昔のように、誰も彼もが収入増の恩恵を受けられる時代ならともかく、これからは賃金の優勝劣敗がはっきり分かれてくるでしょう。収入が増える立場なら、高額の住宅ローンも負担になりませんが、収入が増えないのに住宅ローンの負担が増えると、下手をすると破綻の道をまっしぐらということになりかねません。

そのうえ、子供が結婚して独立すれば、無駄に広い家に老夫婦で住み続けることになります。持ち家を売却して得た資金を元手に高齢者施設に入居するという手もありますが、この場合、問題になるのが不動産の売却価格です。

日本全国どこでも地価が上昇している時ならともかく、今は不動産価格も二極化が進んでいます。東京を中心とする大都市圏は不動産の需要が旺盛なので、不動産価格が高止まりしていますが、地方のように不動産に対する需要が低いところでは、不動産価格の上昇は期待できません。

35年という長期のローンを払い終わる頃には、不動産価格が大きく下落した築古物件になってしまい、高齢者施設に移るのに必要な資金を賄えないかもしれません。不動産が負動産になる恐れがあるのです。

***
 

これまでの日本人は、預貯金と不動産(持ち家)で資産形成するのが一般的でした。しかし、これから先は、そうも言っていられなくなると思います。

預貯金のみの運用では満足に金融資産を増やせず、かといって長期ローンを組んで購入した持ち家の不動産価格が下落してしまったら、老後の生活が窮することにもなりかねません。「預貯金と不動産があれば資産形成は何とかなる」と思っている人は、その考え方を改める方が無難と言えるでしょう。