計画的な資産形成には、経済分野へのアンテナ感度を高めることが不可欠。しかし、豊富なデータの中から自分が知りたい内容のものを選び数値変化を把握するには、正しい知識と情報の読み解き方を身につける必要があります。もちろん、その背景にある歴史的な出来事への深い理解も外せません。
話題の書籍『データで見る日本経済の現在地 働くときに知っておきたい「自分ごと」のお金の話』では、著者で弁護士の明石順平氏が賃金や物価など、日常生活にまつわる数値データから読み解ける客観的事実について優しく解説。今回は本書の第1章「僕の給料は、この国の経済を映している」の一部を特別に公開します。(全4回)
※本稿は、明石順平著『データで見る日本経済の現在地 働くときに知っておきたい「自分ごと」のお金の話』(大和書房)の一部を再編集したものです。
日本の賃金を世界と比較してみると…
――まずは、太郎 ※1が心配している賃金のデータを見てみよう。賃金を見れば、その国の経済状況もよく分かる。
この図はOECD ※2加盟国中34カ国の名目賃金について、1996年と比較した2021年の伸び率を示したものだ。ちなみに名目賃金とは、見た目の金額そのままの賃金を言う。この中で唯一、日本だけが1996年より2021年の名目賃金が下がっているね。3.6%下がっている。
※1 同書内に登場する聞き手。
※2 OECDは「Organisation for Economic Co-operation and Development」の略。経済協力開発機構。ヨーロッパ諸国を中心に日・米を含め、2023年1月現在、38カ国の先進国が加盟する国際機関。
太郎:これは衝撃的……。日本の次に伸びてないのがスイスだけど、それでも34.4%伸びているから、日本の異常さが突出しているね。
――次に実質賃金を見てみよう。実質賃金は、名目賃金を消費者物価指数で割った値のことだ。物価変動の影響を取り除いた、賃金の真の値打ちを表す数値になる。
例えば、名目賃金が2倍になっても、物価が同じく2倍になった場合、実質賃金は変わらない。なお、ここで言う指数とは、ある時点を100とした場合の数値のこと。
太郎:名目賃金よりはましだね。1996年より2.9%だけ伸びている。……まあでもほとんど変わってないね。日本より伸びてないのはスペインだけ。
――そう。そして、この名目賃金と実質賃金の状況は、名目GDP、実質GDPの状況とほとんど一致している。ちなみにGDPとは、「Gross Domestic Product」の略で、国内総生産のことだ。一定期間内(通常1年間)に国内で産出された付加価値の総額で、国の経済水準を測る基本的指標となる。
また付加価値とは、サービスや商品などを販売したときの価値から、原材料費や流通費用などを差し引いた価値のこと。一言でいえば「儲け」ということだね。