まだ直接購入をしている個人は少ない
「高めの分配金を長期的に取得し続けていきたい」という場合、仮に2000万円の資金を年4%の利回りで運用したとすると、年間80万円のキャッシュフローを確保できます。年間80万円と言えば、1カ月あたり6万6000円強です。
毎月これだけの金額を生活費に計上できれば、老後の生活水準はかなり改善されるでしょう。しかも、J-REITのボラティリティ(価格の変動)は株式に比べて低めなので、保有資産の安全性を重視したい高齢者に適した投資対象だと言えます。
それにもかかわらず、J-REITを直接購入している個人投資家はまだ少数です。2023年1月に公表された、「上場不動産投資信託証券(J-REIT)投資主情報調査」によると、所有者別投資口数の割合(2022年8月時点)は、高い順に以下のようになります。
<所有者別投資口数>
投資信託・・・・・・・34.3%
外国法人等・・・・・・26.7%
都銀・地銀・・・・・・11.8%
個人・・・・・・・・・9.2%
事業法人等・・・・・・7.5%
その他の金融機関・・・4.3%
(都銀・地銀等、信託銀行、生命保険会社、損害保険会社を除く)
証券会社・・・・・・・4.2%
生命保険会社・・・・・1.3%
年金信託・・・・・・・0.6%
出所:「上場不動産投資信託証券(J-REIT)投資主情報調査」
もちろん、投資信託は大半が個人によって保有されていますから、間接的には個人マネーがかなりJ-REIT市場に入っていると考えられます。しかし、個人が直接J-REITを購入・保有している比率が9.2%、投資信託経由での保有が34.3%と大きく乖離しているのは、販売金融機関の営業戦略によるものと考えられます。
というのも、J-REITは株式と同じように市場で売買され、かつ投資信託のような「信託報酬」もないので、証券会社からすれば商売にならない商品です。対して、J-REITを組み入れた投資信託に組成し直せば、購入時手数料と信託報酬の一部を受け取ることができて商売的なうまみが増すため、それがこの数字の差に表れていると言えるでしょう。
J-REITの直接投資に向いている人
ところで、「J-REITには組入物件から得られる家賃収入の9割を分配しなければならない」という厳格なルールがあるのに対し、投資信託は投資信託会社が、その時々の状況に応じて分配金額を増減できるという違いがあります。
この違いから考えると、J-REITの直接購入は運用会社の恣意性が介入しない分だけ、分配金の安定性が高いとも考えられます。そのため、キャッシュフローの確保を重視した資産運用をしたいという高齢者の場合は、J-REITを組み入れた投資信託よりも、J-REITへの直接投資の方が向いていると言えます。