J-REITは投資家から集めた資金で商業施設や賃貸マンション、オフィスビルなどに投資し、賃料収入などから生じた利益を分配する商品です。市場の動向を見ながら、J-REIT投資が向いている人について解説します。

J-REIT市場の動向と今後の見通し

ニッセイアセットマネジメントが毎月定期的に公表している「J-REITレポート」には、東証J-REIT市場全体の動向と今後の見通し、投資部門別の売買動向、J-REITの投資先となる不動産市況などについて、各種データと共に詳細なレポートが記載されています。2023年4月に公表されたレポートでは、今後の見通しとして、慎重に上値を探る展開であることが指摘されました。

期待されること

同レポートでは、ポジティブな材料として、「春季の労使交渉」や「追加経済対策」への期待が挙げられています。

春季の労使交渉には、製造業の8割が労組の賃上げ要求に満額回答したこと、企業の賃上げに向けた動きが活発になっていることが該当します。この先、賃上げが実行に移されれば、インフレの進行具合による部分はあるものの、個人消費が活発になり、国内経済が好循環に入っていくという見方です。

これに加え、岸田内閣がインフレ対策として追加経済対策案を与党側に提示したという報道もありました。それも含めて国内景気が活況になれば、不動産市況が好転してJ-REIT市場の取引も活発になるとの見方もあるようです。

懸念されること

一方、ネガティブな材料としては、「信用不安」の広まりが指摘されています。

3月10日に米シリコンバレーバンク(SVB)が経営破綻したことで、2008年のリーマンショックを機に広まった信用不安が想起され、リスク資産への投資を回避する動きが強まりました。

シリコンバレーバンクの破綻が明らかになるのとほぼ時を同じくして、「全預金者を保護する」という政府の措置が行われたおかげで、信用不安はやや後退したものの、続いて米シグネチャーバンクが破綻。さらにスイスでは、3月19日に急激な資金流出で流動性不安に陥っていたクレディスイス(CS)が、UBSに買収されることになりました。

今は何とか騒ぎが収まっている状態ですが、3月中に連続して起こった米欧銀行の経営危機によって、信用不安が一気に加速しました。この手の信用不安の広まりは、投資家のリスク資産への投資を抑制する動きにつながります。

それらに加えて、もう1つ気になるのが「長期金利」の動向です。10年国債利回りは、信用リスクの高まりと共に瞬間0.25%程度まで低下したものの、再び上昇へと転じ、0.45%前後で推移しています。

今後、インフレの高まりと共に長期金利が上昇すれば、J-REITの分配金利回りとの差である「イールドスプレッド」が縮小し、利回りの優位性からJ-REITが買われるという動きに水を差されることも考えられます。