③公的年金の課題 ~そもそも公的年金は当てになるのか~

公的年金については、マスメディアや専門家が「年金額が2~3割も減らされる」だの「支給開始年齢が75歳以上に引き上げられる」だの「少子高齢化でいずれ破綻する」だのといたずらに不安をあおるため、制度に不安・不信を抱いている人が非常に多いのが現状です。

しかしながら、日本の公的年金はよくよく考えて作られた制度であり、制度そのものが破綻することはあり得ません。また、今後の少子高齢化の影響等により年金額が減額される可能性はありますが、それでも、老後の生活設計の大幅な見直しを迫られるほどの極端な減額は、現時点では見込まれていません。

繰り返しになりますが、公的年金の最大の機能は「終身給付」の提供であり、私的年金や貯蓄・資産運用で終身給付を肩代わりするのは大変困難です。公的年金は、それだけで老後生活のすべてをまかなうのは難しいかもしれませんが、老後生活の「土台」には十分なり得ます。老後生活設計を考えるうえでは、公的年金でカバーできることとできないことを認識しておくことが重要です。

公的年金の概要は第2章で、公的年金の受取り方(繰上げ・繰下げ)のポイントは第4章でそれぞれ解説します。

④WPPの課題 ~手元資金を減らす「合理的判断」は可能か~

WPPモデルの「公的年金の受給開始をできるだけ先延ばしにし、それまでの間を就労延長と私的年金等でまかなう」という基本戦略は、終身給付の厚みを増やすためには合理的な方法ですが、手元にあるお金を先に取り崩すことへの恐怖は、おそらく多くの方が感じることでしょう。

また、WPPモデルは、第1回(なぜ私たちは「老後」を恐れるのか? 不安を引き起こす”3大要因”とは)でも述べたとおり、個々人のライフプランに応じて柔軟に設計できる点が大きなメリットですが、一方で、「いつ就労を辞めるか」あるいは「いつ公的年金の受給を開始するか」という判断を下すためには、多くの情報およびリテラシーが欠かせません。

WPPモデルを実行に移すためには、「公的年金を繰下げ受給するために敢えて手元資金を先に取り崩す」という意思決定をサポートするための適切な情報提供、シミュレーション、あるいは信頼できる専門家の存在が欠かせません。 詳細は、第6章で詳しく解説します。