たとえ見よう見まねで始めた人でも“搾取されない”環境づくりが何よりも必須

それでも先述の統計を見るかぎり、すべての人が等しく恩恵を受けているわけではないことも分かります。そもそも積立に回すお金の余裕がない人もいるでしょうし、また利用できるプランがあること自体知らなかったり、知っていてもどう利用していいかわからないという人もいるように感じます。

「金融リテラシー」という言葉はよく耳にしますが、これはすべての人に等しく当てはまらないと思います。人には向き不向きもありますし、得意不得意があります。教育を提供して、どんどん吸収したい人はいいです。一方で、そうでない人、やりたくてもどうもできない人たちも必ず存在することを、ファイナンシャルプランナーの仕事を通して痛感します。教育には限度があるように思うのです。

その場合は、やはりデフォルト化も必要なのではと感じます。401(k)では、従業員がオプトアウト(Opt Out / 401(k)非加入を選択すること)しない限り、数パーセントのデフォルト率で積立が自動で始まり、デフォルトで選ばれたファンド(多くの場合、年齢によってすでにリスク分配され組まれたターゲット・デート・ファンド)に投資されます。私たちにとってアクションをとることは、勇気と労力がいることです。ここではそれが功を奏し、オプトアウトするというアクションをとる人は少なく、結果的に401(k)加入率は劇的に増えました。

※ターゲット・デート・ファンドの詳細については、『ミリオネアも資産形成に活用!「ターゲット・デート・ファンド」とは』をご参照ください。

IRAは個人ベースで契約するものなので、このようなデフォルト利用は行われていませんが、それでも以前は数千というファンドの中から投資先を選ばなくてはならなかったのが、やはりターゲット・デート・ファンドを気軽に利用できるようになったのは大きな前進でした。また、高い手数料も問題視され、今では低手数料のインデックスファンドの利用が一般的になりました。

401(k)もIRAも、よく分からない人が気軽に始められ、よく分からないまま見よう見まねで始めても搾取されない環境が少しずつできてきたように感じます。制度がより多くの人に対して“機能”するには、よくしくみを分かっている人が、個人投資家にやさしい環境をつくってあげ、長期分散投資についての基本的なリスクさえ理解すれば(この教育は避けて通れないと思います)、気軽に投資が始められる環境を整備することです。

起業家や経営幹部ではない多くの一般市民が、リスク分散を極めつつ、企業の成長や経済の成長の恩恵を受けながら資産を増やしていくためには、最小限の理解で投資が始められるプラットフォームを整える必要があると思います。もちろん、それには、難しい金融用語で混乱させたり、不要な手数料やよく分からないリスクを負わされる可能性を取り除くこととセットであるべきです。

日本はまだ経済大国かもしれませんが、でも全世界の株式時価総額における日本株式市場の占める割合はたったの6.2%ほどです。この環境さえ整えば、多くの人が、分散投資の中で自然と全世界の株式に投資することができ、全世界の経済成長にあずかることができるのではないでしょうか。