ウクライナ問題で欧州のLNG不足が深刻化
2021年からはエネルギー危機の影響で、LNGが大規模な価格高騰を見せている。
2020年、新型コロナウイルスが各国で流行した影響を受けて、世界中の企業が生産活動を縮小させ、資源の需要が激減。その影響を受けた翌年2021年には、多くのエネルギー関連企業が資源の生産量を抑制した。
しかし、2021年には世界中で経済再開の動きが活発化したため、予想に反して資源への需要が急回復を見せる。需要に供給が追いつかず、LNG価格の急激な高騰へと繋がった。
さらに2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻によって、状況はさらに深刻化する。ロシアは資源大国であり、日本を含めた多くの国がロシアから資源の輸入を行う。しかし、ウクライナ侵攻によって世界各国とロシアの関係が悪化。この影響を受けて欧州諸国のロシア産天然ガスの輸入量は、前年の2〜3割程度にまで落ち込むこととなった。
特に欧州は天然ガス消費量の約3分の1をロシアからの輸入に依存しているため、状況は深刻だ。島国の日本とは異なり、多くの国々が陸続きで繋がる欧州では、パイプラインを通して天然ガスを輸送する手段が取られており、ロシアとドイツの間には「ノルドストリーム」と呼ばれる天然ガスを送るパイプラインが引かれている。
しかし、2022年8月下旬、ロシアはこのノルドストリームを停止させることを発表した。ノルドストリームの設備に油漏れが見つかったことが停止の理由だとされているが、各国の経済制裁に対抗するために資源大国であるロシアの影響力を示すことが目的ではないかという声もある。
ノルドストリームの停止は欧州の生活や経済活動へ与える影響は甚大だ。欧州の中でも特にロシア産天然ガスの輸入割合が高いドイツでは、電気の使用制限も実施されている。
このような背景から、欧州では今後も安定した供給が望めるとは限らない、ロシアの資源に頼る現状から脱却しようという動きが高まりを見せている。
一時価格下落を見せるも、冬場への懸念は残る
ロシアと欧州各国の関係悪化によって厳しい状況が続く一方で、欧州では米国からのLNGの輸入や、ノルウェーからのパイプラインによる天然ガス輸入が増加。これにより天然ガスの貯蔵状況は改善を見せている。
EUでは2022年11月までに、加盟国全体でのガス貯蔵率を80%以上にすることを目標としていたが、同年8月には予定を2ヵ月前倒して達成した。このことを受け、高騰していた欧州のガス価格が2022年9月中頃には下落する動きを見せている。
値下がりの要因には、LNGの最大輸入国である中国が景気低迷を理由に輸入量を大幅縮小させたことも挙げられる。中国からの需要が減少したことで、その分国際市場に出回るLNGの量が増加したとみられるためだ。
また、化学メーカーなど大量のガスを消費する企業が価格高騰に対応するべく生産の抑制に踏み切ったことも過剰な需要の高まりを冷ます要因となった。
ただし、夏と比べてガスの消費量が3倍程にまで高まる冬に向けて、再びガスが不足する懸念は依然として存在する。欧州を中心とした天然ガス不足がどのような展開を見せていくかは、今後も世界情勢における重大テーマと言えるだろう。