不動産は日本中で上昇せず。80-90年代バブルの過熱感は無し
こうした日本の不動産市場への海外投資家による資金流入と、不動産の売買価格の上昇から、日本の不動産市場がバブル化しているという意見も出始めています。バブルはいつか弾けるという定説で考えれば、どこかの局面で逆風が吹き始め、不動産価格が下落に転じ、再び1990年代の不動産バブル崩壊、金融機関の不良債権問題へとつながるのではないか、という懸念も出てきそうですが、恐らく今の日本においてそのリスクはほぼないと考えられます。
1980年代を通じて日本の不動産価格は急上昇し、多くの銀行はその不動産を担保にして積極的な貸し出しを行いました。当時、日本の不動産価格は下がらないという土地神話が全国的に広がり、それこそ北海道の原野までもが地上げの対象になったのです。
しかし、今の不動産価格の上昇は、日本全国で生じているものではありません。特に今、海外投資家が積極的に買っている日本の不動産は、都心一等地、あるいは地方でも大都市圏の不動産です。確かに、こうした一部の不動産価格は大きく値上がりしていますが、日本中で不動産価格がどんどん値上がりしているというほどの過熱感はありません。
ただ、懸念されるとしたら、日本の優良不動産を海外の投資家に押さえられてしまうことです。これには2つの観点があります。
第一は、優良な不動産から生じる賃料収入が、日本国内にほぼ滞留することなく海外に流出してしまうことです。これは、日本国内の富の海外流出を意味します。つまり国益を損なう恐れがあります。
第二は、海外の投資家が保有している国内の優良な物件、特にオフィスビルなどに日本企業がテナントとして入る時、間にエージェントが入るにしても、条件の交渉相手が海外の投資家になるということです。
これは実際にあった話ですが、ある飲食店が入っていたビルを海外の投資家に買われてしまったために、これまでの倍の家賃を要求されることになり、やむなくそのビルから退去せざるを得ない状況に追い込まれました。
また景気が悪くなると、オフィスビルに入っている企業はビルオーナーに対して、家賃の引き下げ交渉を行ったりしますが、この手の交渉を行う際にも、日本の事情を一切忖度しない、海外の投資家と行うことになります。場合によっては、「今の家賃に不満なら出ていってくれて結構です」などと言われかねません。つまり日本の論理が通用しなくなる恐れがあるのです。
これは不動産に限った話ではなく、株式市場においても当てはまります。円安で日本企業が安く買えるとなれば、企業の内部留保を吐き出させることだけを目的にした、海外アクティビストの介入を招く恐れがあります。これも日本の国益を損なう恐れがあります。
「輸出企業の業績にとってプラスだから円安歓迎」といった意見もありますが、資本の移動がボーダレス化したグローバル経済においては、自国通貨安を単純に喜べない側面があることを、理解しておく必要があります。