マクロ経済スライドによる調整は、むしろ将来の受給者のための仕組み
このように給付水準を調整して、年金の財政支出を抑制し、将来年金制度が破綻することなく持続可能な制度になるように設計されています。
マクロ経済スライドによる抑制を実施し、その調整期間を早く終わらせないと、将来世代の給付が減ることにつながってしまいます。このマクロ経済スライドによる調整は、むしろ将来の受給者のための制度とも言えるのです。
物価と賃金のみですでにマイナス改定がなされる場合は、スライド調整率での調整がされません。しかし、2018年度以降、その“未調整”となった分は翌年度以降に繰り越され、翌年度以降に物価・賃金水準で見てプラスとなった場合に、その繰り越された未調整分がマイナス調整されることにもなっています(マクロ経済スライドのキャリーオーバー制度と呼びます)。このように可能な限り早期に調整を行う仕組みを取り入れることで、将来世代の給付水準を確保することにつながっています。
年金財政の健康診断「財政検証」やバッファーである「積立金」の存在も
また、2004年の年金制度改正で「改正しておしまい」ではなく、年金財政の健全性を確認するために、5年に1回「財政検証」も行われています。年金財政の定期健康診断であると言われ、財政検証で公的年金財政の現況と見通しが公表されます。この結果を踏まえて給付水準確保のために、被用者年金の適用拡大で厚生年金被保険者を増やす(厚生年金保険料を払う人増やす)など改革も進められています。次回の「財政検証」は、2024年に公表されますので、ぜひ読者の皆様には関心を持ってニュースなどご覧いただきたいところです。
また、年金の給付財源には、被保険者からの保険料や税金(国庫負担)だけでなく、年金積立金制度もあります。保険料収入のうち、保険給付に充てられなかった部分が将来世代の給付に充てるための積立金となり、これがGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)によって運用が行われます。積立金は少子高齢化が進んだ場合に将来の給付財源の不足を補うこともできます(100年後に給付の1年分の積立金が残るように財政計画が定められています。いわば給付の資金のバッファーと言えるでしょう)。
なお、運用の結果損失が出るとニュースで大きく取り上げられますが、長期的に見ればその運用資産額は増えてきており、2021年度末時点で196兆円5926億円にのぼっています(年金積立金管理運用独立行政法人「2021年度 業務概況書」より)。