新興国通貨を長期保有しても、いずれ価格上昇するとは限らない

さて、新興国通貨については、ちょっとした誤解があるように思えます。それは株式と同じように、通貨も国の成長に応じて上昇するものと考えている人が多いということです。そのため、新興国通貨についても長期保有すれば、その国の経済成長によって通貨高になり、為替差益が得られるはずと思っている人が少なくありません。

でも、株式と通貨は全く異なるものだということに留意しておく必要があります。株式は、発行企業の持ち分権を小口化したものであり、それを持つことは企業のオーナーになっているのと同じです。

そのため、企業が利益を積み上げて企業価値を向上し続けていく限り、相場の需給関係によって株価は多少の上下を繰り返すものの、基本的に株価は上昇トレンドを描いていきます。株式に長期投資できるのは、企業経営者をはじめとして、経営に携わっている大半の人が、会社を存続させ、かつ成長させることを前提にして、経営努力を続けているからです。

一方、通貨はどうかというと、前述したように異なる2つの通貨の交換比率が為替レートです。円を売り、米ドルやユーロ、その他の通貨を買うのが外国為替取引ですが、基本的に交換比率に過ぎないため、株価のように、長期的に上昇トレンドを描くようなことにはなりません。基本的には一定のレンジ内において、上昇・下落を繰り返すものと考えられます。

確かに円の場合、終戦直後に1ドル=360円の固定相場が決められ、1971年のニクソンショックによって変動相場制に移行した後、ひたすら円高が続きました。しかし、これは戦後日本の経済成長があまりにも凄まじかったため、とりわけ変動相場制に移行してからの円高局面は、円の適正な水準を探るための修正局面だったと考えられます。

実際、円の対米ドルレートは、2011年10月31日に1ドル=75円54銭という円高を付け、今は1ドル=140円近辺まで円安が進んでいるものの、変動相場制に移行してからのドル円レートの推移を見ると、1987年あたりから現在に至るまで、1ドル=75円から150円のレンジで推移しています。最近、円安が何かと話題に上りますが、それでも1ドル=140円前後の水準は、ここ35年間におけるレンジ相場の範囲内と考えられるのです。