新興国投資に潜む政治、通貨、信用、流動性リスク

一部では、新興国通貨を円に見立て、「日本の高度経済成長によって円高が進んだのと同様、新興国通貨も長期的に見て、円と同じように通貨高になることが期待できる」などと言われていますが、これについてはいささか疑問が残ります。

たとえば経済構造の問題ですが、かつての日本のように、「メイド・イン・ジャパン」を世界中に輸出して外貨を稼ぎ、かつ国内では人口の増加によって内需がどんどん拡大していくような経済構造を持っている新興国は、非常に少ないと考えられます。グローバルな競争環境で勝ち抜けるほど強い自国産業を持たず、先進国企業の生産拠点として使われているだけの新興国では、経済成長にも限界が生じます。つまり、新興国通貨を長期保有しても、かつての円のような通貨高メリットを享受するのは、難しいのではないか、という仮説が浮かんできます。

さらに言えば、今の新興国経済は、先進国次第の部分が非常に大きいと思われます。先進国が投資をするから新興国に資金が回り、その経済は活性化されますが、今回のように資金の流れが逆転すれば、新興国経済は苦境に立たされます。この構造は、1997年のアジア通貨危機の時と、ほとんど変わっていません。

そうなると、個人が新興国の株式や債券に投資するのは、本当にリスクに見合うのかということを再考する必要があります。

つまり新興国の政治リスク、通貨リスク、信用リスク、流動性リスク、法務リスクなど、さまざまなリスクを負うのに見合うだけのリターンが得られるのか、ということです。

新興国の株式市場に投資するファンド、あるいは新興国通貨建ての債券は、政治リスク、通貨リスク、信用リスク、流動性リスクを間違いなく負いますし、新興国不動産投資は以上の各リスクに加え、法務リスクをも負うことになります。

一方、先進国企業が新興国投資を行い、そこからの利益を得ているのだとしたら、新興国投資を行っている企業の株式に投資すれば、新興国投資のリターンは得られるし、新興国投資につきまとう各リスクは、企業のリスクマネジメントによってカバーされます。

グローバルにビジネスを展開している先進国企業に投資することによって、新興国投資の果実を得ることができ、同時に新興国に直接投資することのリスクが相当程度軽減されるのであれば、わざわざ新興国に直接投資する必要はないとも考えられるのです。