金融政策で生じた「円安」の是正はしない方向

物価上昇に関連して目下の重要な経済テーマとなっているのが、歴史的な円安だ。ドル円は2022年7月11日に、約24年ぶりとなる137円の円安水準に達した。利上げを進める米国などの先進主要国との金利差を拡大させていることから「日銀の金融緩和継続が円安の主な要因」と指摘されている。

輸入額が約84.8兆円(前年比24.6%)と大きく伸長した日本において、苦汁をなめさせられている企業は多い。通貨安となった国は輸入に必要な通貨量が増加してしまう。そのため、海外から製品の原材料などを仕入れる企業や、その企業から製品を仕入れる企業にとっては業績の下押し要因となる。一方で輸出企業にとっては、国内で安くつくった製品を海外で高く売ることができるため利益拡大につながる。

※ 出所:財務省「令和3年分貿易統計(確々報)

輸出と輸入でメリットデメリットが逆転する円安だが、 日銀が以前から表明してきたのは「円安は全体としては日本経済にプラス」という見解だ。

2022年6月17日の会見でも黒田総裁は基本的な考えは変えておらず、「円安で収益の改善した企業が設備投資を増加させたり、賃金を引き上げたりすることによって、経済全体として所得から支出への前向きの循環が強まっていくことが大事」と述べている。つまり、足元の円安トレンドも生かして企業収益の拡大を図り、個人の消費活動および経済全体をサポートしていきたいというわけだ。

しかし同会見で黒田総裁は「急速な」円安の進行については、「先行きの不確実性を高めて企業による事業計画の策定を困難にするなど、経済にマイナスであり望ましくない」とも発言している。トレンドを生かしたいとはいえ「為替市場を注視していきたい」姿勢を見せる、若干の意見変更が見られた。

これについて記者からは「為替も金融政策の判断材料なのか」「為替を注視した上でどうするのか」など、為替に関する質問が相次いだ。それらの質問に対して黒田総裁は「金融政策は物価の安定のためであり、為替レートをターゲットにして政策運営することはない」と発言。金融政策を通じた円安の是正はしないとはっきり述べている。