物価高を経済成長の突破口としたい黒田総裁

物価のさらなる急騰を招くリスクを抱えながらも、日銀は金融緩和へと舵を切っている。直近の黒田総裁の発言からは物価高を起点とし、緩和路線を維持することで賃金の上昇や安定的な経済成長に結びつけたい思惑がうかがえる。

2022年6月6日、黒田総裁は都内の講演で「日本の家計の値上げ許容度も高まっている」と語った。同発言は「馴染みの店で馴染みの商品の値段が10%上がったときにどうするか」という東大大学院のアンケートについて、前回調査から値上げを受け入れる人の割合が増えているという結果をもとに述べたものだ。

黒田総裁は調査結果について「相当の幅を持って見る」としながらも、結果を引用しつつ「日本の家計が値上げを受け容れている間に良好な経済環境をできるだけ維持し、賃金の本格上昇にいかに繋げていけるかが当面のポイント」と結んでいる。

「世間の値上げ許容度の高まり」と「賃金上昇」。一見何の繋がりもないように見える2つの事象だが、両者は「企業収益の拡大」と合わせて、安定的な経済成長を果たしていく上で欠かせない要素となっている。

企業が生産コスト高を販売価格やサービス料金に転嫁しても、家計の値上げ許容度が高い、つまり消費の度合いが落ちない場合、モノの売れ行きは変わらずに企業の収益性は維持されることになる。その後、仕入れ物価が落ち着きを見せても販売価格が据え置かれ、消費者の購買意欲も変わらず堅調なら企業利益は拡大する。

こうして企業の業績が上向くことで、労働者には賃金の上昇というかたちで還元されていく。労働者はモノの購買力が増し、値上げに対する許容度はさらに上昇するというサイクルが生まれる。日銀はこうした好循環を目指し、金融緩和を粘り強く継続することでまずは経済活動を下支えしていきたいわけだ。

なお、黒田総裁の「値上げ許容度」発言は社会から批判的に受け止められ、後日陳謝に追い込まれている。「経済成長のためにはモノの値上げが必要である」という考え方と、国民の値上げに対する認識にずれがあったためだろう。

長年デフレ基調にあった日本では、モノの値段は上がらないと考える国民が多い。このような環境下では、企業は生産コスト高を転嫁しにくくなってしまう。黒田総裁の「値上げ許容度」発言には、国民のデフレマインドを変えていきたいという思いがあったのかもしれない。