人の善意に頼る仕組みのため、資本主義の考えではどうしても持続性が懸念されます。つまり、寄付せずに食事する人だけが殺到すればカルマキッチンは破綻する、という指摘です。おそらく多くの現代人がそのように心配するでしょう。
しかしそのような心配をよそに、カルマキッチンは世界中に広がり、日本でも東京や神戸で開催されました。今では世界で提供された食事は10万食を超え、ボランティアスタッフが働いた時間は8万時間を超えています(2022年7月8日時点)。カルマキッチンはもはや1つのレストランを表す言葉ではなく、この仕組みそのものを指す1つの概念となりました。
カルマキッチンが成立している理由は、利益の最大化を基本とする資本主義では説明が難しいでしょう。資本主義ではサービスや商品の対価としてお金を支払うのであり、また、給与があるから人は働くと考えます。つまり対価のない寄付やボランティアとしての労働は基本的にあり得ません。資本主義は合理的で理解しやすい考え方ですが、一方で経済格差や搾取といった問題が歴史的に付きまとってきました。
カルマキッチンはお客の貧富にかかわらず、全て純粋な贈り物として食事を提供します。そしてカルマキッチンの考えに賛同し、お金がある人は寄付を、そうでない人もスタッフとして協力し、カルマキッチンの運営に参加できます。つまりカルマキッチンは、誰もが食事側・運営側のいずれにも平等に参加できるのです。
カルマキッチンの成功は、「人は決して利益だけで行動するわけではない」ということを示しているのではないでしょうか。
執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。