相談者を動かしたのは「2000万円問題」

6年前には、住宅ローンの他にも、孝之さんの企業型DCの運用についても相談を受けました。

その企業型DCの話の流れから、みどりさん自身もiDeCoで「自分年金」を作り、かつ所得税を節税するよう勧めました。なぜならば、当時、みどりさんは社会保険では孝之さんの扶養に入っていましたが、所得税はご自身で支払っている状態だったので、iDeCoで節税するのは有利だったためです(結局その当時はみどりさんはiDeCoを始めませんでしたが……)。

※所得税と社会保険では、扶養となる収入の基準が異なるため。詳細は後述。

その後、みどりさんを変えたのが、「年金2000万円問題」でした。それは平均的な収入の元サラリーマンの夫と専業主婦の年金生活家庭というモデルケースで計算すると、老後生活を維持するのに公的年金だけでは足りず、不足するお金は2000万円ほどだというものでした。

みどりさんはこの問題に危機感を覚え、まず社会保険の扶養を外れて働くことに決めたそうです。そして、iDeCoにも興味が出てきたと言います。

ここで、パートの仕事を増やし、収入を上げることは、社会保険、税、iDeCoの節税メリットの3点が深く関わり、大きく意味のあることです。

それぞれ解説していきます。

106万円の壁を超えて働くことで、年金が厚くなる

「〇万円の壁」という言葉を多くの方が耳にしたことがあるでしょう。

みどりさんの場合は「106万円の壁」でした。106万円とは、月の収入が8万8000円を超える、勤め先の規模などのいくつかの条件を満たした場合、パート勤務であっても勤務先の社会保険の加入対象になる基準です(みどりさんの勤め先は基準に合っていました)。みどりさんはその“106万円の壁”を超えて働く選択をしたわけですが、この点は長期的に見ると正しいと言えます。

社会保険での扶養(国民年金第3号被保険者)のままでいたら、国民年金保険料や健康保険料を支払わなくても国民年金は受給でき、医療費も3割負担ですみます。令和4年4月からの国民年金保険料は月に1万6590円。これを払わなくても、年金を受けられる第3号の制度は確かに“お得”な一面もあります。

しかし、国民年金のみの場合、将来受け取れる年金は満額でも77万7800円(令和4年4月分から)。月にすると、6万5000円に少し足りない程度です。

もし8万8000円の給与(標準報酬月額も8万8000円)で社会保険に加入した場合、厚生年金保険料は月に8052円(令和4年3月分から)。社会保険料の半分は事業主が負担するので、実に国民年金保険料の半額で済みます。

他に健康保険料約5000円を払う必要がありますが、万が一みどりさんが病気やケガで会社を休まなければならなくなった時に、3日連続休んだ後、4日目から傷病手当金(1年間平均の標準報酬月額の2/3)を、通算して最長1年6カ月まで、受け取る事ができます。

社会保険料を支払って手取りが減ると、“損”をしたかのような気分になりますが、将来受け取る年金が増えたり、万が一の場合の備えができるのです。そのため、長期的に見ればパートのお仕事を増やしたのは正解と言えるでしょう。

ただし、収入が上がれば所得税も住民税も増えるから…iDeCoの出番!

収入を増やすと、年金が増えるのは嬉しいものの、気になるのは税金。

収入103万円(みどりさんの場合はパートの給与収入)を超える時点で、所得税がかかり、しかも収入が上がるだけ所得税も増えます。住民税もしかりです。

ここでiDeCoの節税メリットが効いてくるのです。みどりさんがiDeCoを利用すれば、毎月最大2万3000円まで掛けることができます。所得税も、住民税も掛金を全額所得控除にできます。収入増額分を目処にiDeCoを始めましょう。

慣れるまでは、最低金額の5000円の拠出でもよいでしょう。