ESG投資を巡る世界の動きと日本への示唆

日本の投信業界は、まだESG投資について取り組み始めたばかりですが、それは日本の金融当局も同様です。一方、海外に目を転じると、欧州が先行しており、彼らはすでに「EUタクソノミー(分類)」を公表しています。これにより、「どの商品がサステナブルなのか」が見える化され、そのような商品に資金が集まることで、脱炭素化が早まることを狙っています。

これに加えて、EUの金融機関等を対象にしたサステナビリティ関連の開示規制(SFDR)も整備しています。EUタクソノミーは環境(E)にフォーカスしていますが、SFDRでは社会(S)も含めてサステナブルと定義している点が大きな違いです。また、SFDRでは、投信はグリーンの中でもダーク・グリーン(サステナブル投資)とライト・グリーン(サステナブル投資に該当しないが、結果的に環境と社会の改善を促進している)に分類され、これらに該当しないものはすべてブラウンとみなされます。

さらに運用会社には、契約前にサステナビリティに関する情報の開示が求められますが、これはいわゆる「ESGウォッシュ」対策であり、その判断材料を投資家に提供することを狙っています。

このように欧州では具体的な「ESGウォッシュ」対策が講じられていますが、日本でも現在、同様の取り組みについて議論されています。金融庁は今、投信でESGをうたう場合は、その特徴や運用プロセスを分かりやすく顧客に説明することを、資産運用会社に求める方向で検討しているようです。

しかし、日本においては運用商品自体への対策よりも、その取り扱われ方のモニタリングのほうがはるかに重要だと個人的には考えます。仮に、EUタクソノミーやSFDRの観点から適切な金融商品が提供されていたとしても、短期的な流行・テーマとして短期売買の対象になってしまっていたら何の意味もありません。そもそもESG投資は長期的なものであり、短期売買はそのコンセプトに反しているからです。

また、上述の通りESGの効果はまだ学術的には確立されておらず、ESGを考慮したからと言ってリターンが上がる保証はありません。にもかかわらず、過度な期待を投資家に持たせて販売する姿勢も適切とは言えないでしょう。

このようにESG投資は販売姿勢とも結びつくため、日本の場合には、「顧客本位の業務運営」の論点における商品面の議論(「ESGウォッシュ」の回避)に加えて、ESG投資の不適切な販売方法などもモニタリングすべきではないかと考えます。

ここまで、ESGについての課題等を指摘しましたが、ESG投資のコンセプト自体には賛同する人は多いでしょう。では、そのような人は、どのようにESG投資を始めればよいのでしょうか?

長期投資のための制度である確定拠出年金(DC)やつみたてNISAでは回転売買を行いづらいため、長期投資を前提としているESGとの相性がよく、個人的にはこれらの制度での活用をもっと議論してもよいと思います。ただ、日本ではESGと受託者責任の関係性について、まだ本格的な議論が行われていません。今後、投資家に適切なESG投資をしてもらうためにも、それぞれの制度におけるESG投資の位置づけについての議論が進めばよいと思っています。