米国で実際に起きていた1970-80年代の長期インフレの悪影響

特に注視すべきはインフレの問題です。資源高によって海外に所得が移転するのもさることながら、懸念するべきはインフレの悪影響です。好景気によって需要が高まった結果としてモノの値段が上がるのは、それだけ経済活動が活発であることの証拠なので、好景気による需要増で醸成されたインフレは、「良いインフレ」と言われます。

しかし今、世界的に起っているインフレは、戦争を引き金にした資源高に伴うコストプッシュ型のインフレです。ウクライナ情勢は先が見えず、ロシアへの西側諸国の制裁はまだ続きそうです。そうである以上、西側諸国はロシアに頼ることなく資源を輸入できる先を新たに見つけるか、あるいは代替資源、代替エネルギーの活用を進める必要があります。ただ、それは今すぐというわけにはいきませんので、タイムラグが生じます。この間、資源・エネルギーに対する需要ひっ迫が深刻化し、インフレが加速する恐れがあります。

何よりも、今回のインフレで懸念されるのは、2020年初頭から始まった世界的なパンデミックによって、米国だけではなく、EU各国や日本でも大幅な金融緩和が行われ、世界の金融市場にはお金がジャブジャブに溢れかえっている状況です。つまり、いつインフレの度合いが高まってもおかしくない状態のところに、ロシア制裁による資源高という火種が投げ入れられたのです。

これは米国の話ですが、似たような状況でインフレが一気に加速したことがありました。1960年代、暗殺されたケネディ大統領の後継者となったジョンソン大統領は、高齢者医療や貧困層への食糧援助、教育制度の充実を通じて「偉大な社会」を構築しようと試みましたが、それは莫大な財政出動を伴うものでした。

加えて、ベトナムへの本格介入によって軍事費が拡大。こうして財政がどんどん拡大しました。財政が拡大すれば、それだけ市中にお金が溢れ、インフレが加速する素地がつくられます。米国の消費者物価指数上昇率は、1970年が5.8%で、1972年には3.8%まで低下したものの、1974年には11.05%まで上昇しました。1976年には5.74%まで低下したもののインフレの勢いが再び強まり、1980年には13.54%まで上昇しました。

この、1970年代から1980年代前半を通じて生じたインフレの原因は、2度にわたるオイルショックと言われていますが、恐らくそれ以前に、莫大な財政出動によって市中に資金が溢れていたことが、より一段とインフレを加速させたものと考えられます。そして、それはパンデミックで未曾有の金融緩和が行われた現代と、極めて似た状況にあると考えられます。