地方銀行をはじめ金融業界が大きく変わり始めています。私たちの生活においてもデジタル化やキャッシュレス化の波により、金融機関の変化を肌で実感されている方も多いと思います。ただ、足元で進む金融機関の再編は十分とはいえず一筋縄ではいかない様子。長年にわたり金融業界など幅広い取材活動を続ける日刊工新聞社の鳥羽田継之氏に、2月に出版された著書「なぜ信用金庫は生き残るのか」(祥伝社新書)から、金融業界が抱える課題や業界再編の見通し、信用金庫による独自の強みを活かした生き残りのヒントなどについて解説して頂きました。

今のままでは変わらない、銀行を待つ悲観的未来…

2月10日、経営統合に向けて検討を進めていた宮城県のフィデアホールディングス(HD)と岩手県の東北銀行が、経営統合の基本合意を解除したと発表しました。両者は2021年7月に経営統合に関する基本合意を締結し、東北銀行がフィデアHDグループ入りする形での経営統合を目指していました。統合準備委員会を設けて実務的な協議を進めましたが、地域密着にこだわる東北銀行と、荘内銀行(山形県鶴岡市)と北都銀行(秋田市)を傘下に持ち広域性を特色とするフィデアHDとでは目指すべき銀行像にずれがあったのでしょう。統合は破談に。菅義偉前首相の問題意識から加速した令和の銀行再編は、皮肉にも元首相を輩出した東北で、後退を余儀なくされました。

地銀再編が進まないことで、歯がみする関係者もいるでしょうが、当事者である銀行員はホッとしているかもしれません。そもそも地銀再編は、低金利や地方経済の衰退で収益性が落ち込む地銀を合併で巨大化し、経営を安定化させるのが狙いです。ただ、地銀の経営悪化の最大要因である地方の過疎化、地方経済の衰退は、現状、いかんともしがたい。地銀再編が再加速し事業規模が大きくなったとしても、今のままでは、銀行を待つ悲観的な未来は変わらないでしょう。

地銀再編が暗礁に乗り上げる一方で、存在感を高めているのが協同組織金融機関、特に信用金庫です。民間調査会社の東京商工リサーチが2021年に実施した、全国153万6402社を対象とするメインバンク調査を見ると、信用金庫の強さがハッキリと分かります。同調査によると、企業がメインバンクとしているのは地銀が49.91%、メガバンクなど大手行が23.40%、信用金庫が21.90%です。地銀と大手行を合わせで約72%となり銀行のシェアの大きさがわかりますが、注目して欲しいのは近年のシェアの推移です。