いわきと銚子の中小企業をつなぐ信金のネットワーク

「よい仕事おこし」をきっかけに生まれた中小企業のマッチング事例をご紹介します。トラスト企画(福島県いわき市)は、廃プラスチックやペットボトルから高機能材料を作る東北の素材メーカーです。同社が近年力を入れているのが、生分解性プラスチック素材の開発。生分解性プラスチックは土中のバクテリアや日光で分解されるプラスチックで、環境負荷が低いのですが、価格が高いのが難点です。同社の生分解性プラスチックは、天然由来、廃棄物由来の素材を混ぜてコストダウンしており、別の素材を混ぜて新たな機能も付加しています。

2019年、同社の宮野悦甫(みやの・よしまさ)社長は、抗菌性の高い生分解性プラスチックを開発するため、貝殻を探していました。焼いて粉末化した貝殻はアルカリ性で、高い抗菌効果を有するためです。地元、福島県の特産品であるホッキ貝の貝殻を使おうとしましたが、宮野社長はある人から「福島産の貝殻を使うことで放射能汚染を危惧する人もいる」と言われました。原発事故から8年経っても、放射能の風評被害は消えていない。宮野社長はショックを受けるとともに、悔しい思いでいっぱいでしたが地元の貝殻を諦めました。

他の地方から貝殻を大量に安価に手に入れたい。そう考えた宮野社長は、地元の信用金庫であるひまわり信用金庫(福島県いわき市)の台正昭(うてな・まさあき)理事長に相談します。台理事長は、「地元でも有名な行動する信金マン」(トラスト企画)であり、トラスト企画が抗菌剤としてホタテの貝殻を検討したときには、一緒にホタテの産地・青森県まで足を運んだほどです。宮野社長の相談を受け、台理事長とひまわり信用金庫のメンバーが考えたのが、「よい仕事おこし」のネットワークを通じ全国の信用金庫に貝殻募集を呼びかけることでした。一週間後、銚子信用金庫(千葉県銚子市)から「うちのお客さんなら貝を無償で提供できる」と返事が寄せられ、貝殻の無償提供が決まります。一週間でのマッチングは非常に素早い動きです。台理事長は「信用金庫はお客さんの事を思って全力で仕事をしています。だから成果を出すのも早いのです」と胸を張ります。