「資産クラス」の視点で捉えるインフレ・ヘッジ
次に個別企業ではなく、資産クラスという大きなカテゴリーで見ていきます。
インフレ・ヘッジを考える際、最重要ポイントは投資期間です。株式は上述の通り、インフレから生じる金利上昇によって企業価値が下がる傾向にあるため、短期的にはインフレ・ヘッジにはなり得ないでしょう。一方で、企業は長期で見ればインフレを大きく上回るペースで成長しているため、株式指数のリターンはインフレを上回っています。
つまり、投資期間が長い場合、例えば若者が老後資金を形成する場合には、単純に株式投資をしていればそれでよいことになります。インフレ・ヘッジは難しくないのです。
では、投資期間がそこまで長くない場合はどうでしょうか? 投資期間が短中期で、また資産の引き出し局面にある場合には、インフレに備える必要があるでしょう。短中期的にインフレ抵抗力のある資産は何なのか……。それを考える際には、以下の3つの軸が重要になります。
1つ目は「インフレ感応度(インフレとの連動性)」、2つ目は「インフレ・ヘッジ時の勝率(インフレ時にリターンがプラスになる確率)」、最後は「コスト効率性(機会コストも含む)」です。ここでは、一般的にインフレ・ヘッジの候補として挙げられる「REIT」「商品先物/金」「インフレ連動債」を、この3つの軸で評価してみたいと思います。
まず、日本でも投資対象として一般的になっている「REIT」について。REITは投資対象が不動産ですから、インフレ時には家賃を引き上げることで収益を確保しやすいため、インフレ・ヘッジになり得ると考えられています。実際、REITの「勝率」は高くなっています。
ただ、REITは株式の一種とも言えますから、通常の株式同様「インフレ感応度」は高くありません。REITは通常の株式と同様に低コストで投資できるため、「コスト効率性」は高いと評価できるでしょう。
次に「商品先物/金」について見てみます。これらはともに「インフレ感応度」は極めて高く、インフレ・ヘッジの機能の最重要な特性は有していると思われますが、インフレ・ヘッジとして機能するのは、非常に高いインフレ時のみと言っても過言ではありません。つまり、『勝率』はあまり高くないのです。しかも、商品先物/金は株式や債券と違って配当や金利を生み出しておらず、コスト(逸失利益)が高くなる傾向にあり、「コスト効率性」は低いと言えます。
最後に「インフレ連動債」はインフレに連動するよう設計されていますが、そもそも債券なので金利、特に実質金利が上がると価格が下がってしまいます。したがって、実は「インフレ感応度」はそこまで高くありません。また、通常の債券よりもリターンが低くなる傾向があり、「コスト効率性」も高いとは言えません。ただ、「勝率」はかなり高くなっています。
以上、インフレ・ヘッジとして挙げられる代表的な資産を評価してみましたが、結論は、インフレ・ヘッジに完璧な資産クラスはないということ。どれか1つに頼るのではなく、分散投資をすることが最も堅実なやり方だと言えるでしょう。今60代以上の方はオイルショックを経験されていますから、インフレの怖さは身をもって感じているはず。そんな方は、インフレに対する保険として、上述のような資産に一部投資することを検討してみてもよいかもしれません。