〈前回まで〉
独立系投資信託委託会社「鎌倉投信」の代表取締役社長、鎌田恭幸氏にロングインタビューを行い、この鎌倉でファンドを立ち上げたこれまでを振り返って頂きました。鎌田氏は外資系資産運用会社グループの元同僚4人と金融の枠組みを通じて「いい企業」を応援するという企業理念のもと立ち上げます。しかし、無名のファンドに十分な資金が集まるわけもなく、当初は売上高1000万円に対し1億円の経費がかかるといった赤字が続き、苦戦を強いられました。そんな中、徐々に活動が認知されメディアやブログ、SNSで話題になるなどサポーターが増え始めた頃、あの東日本大震災に遭遇することになります…。
震災で分かった「信頼に根差したお金の循環させる」意味
東日本大震災が起こったのは、初の投資信託となる「結い2101」が設定されて1年後のことでした。まだ運用資産残高が5億円程度の頃です。大震災は大変、悲しい出来事でしたが、私にとって、また鎌倉投信にとっても、ひとつの転機になったのは事実です。
記憶にある方も多いかと思いますが、震災が起こったのは金曜日の14時46分でした。週末の引け間際のことで、その日の株価に大きな影響はなかったのですが、土・日曜日を経て事態が極めて深刻であることがわかり、翌週の月曜日と火曜日の2日間で株価は20%も下がりました。まさに売りが売りを呼ぶ展開でした。
当時のお客さまは500人前後。結い2101は日本株のアクティブファンドですから、当然、不安に駆られたお客さまからかなりの解約が出てくることを覚悟していました。でも、実際にはほとんど解約請求が来なかっただけでなく、逆にこの2日間で最大の入金件数になったのです。また鎌倉投信は直販の会社でしたから、メールや手紙で、
「こういう時だからこそ日本のいい会社を応援したい」
「復興支援に直接関わることはできませんが、結い2101への投資を通じて社会を少しでも良くできるなら、少額ですが投資したいと思います」
といったメッセージをいただきました。まさに祈りともいうべきお金が集まってきたのです。
その時ふと思ったのは、「お金は無色透明なもので、さまざまなつながりをもたらすものだけれども、そこには明らかに想いを伝える力がある」ということでした。
想いを持ったお金を経済や社会のなかに循環させることを通じて、つながりのあるお金の循環を生むこと。そのお金の裏には信用や信頼が紐づいていて、「信こそが貨幣である」ということを確信した瞬間でした。それと共に、自分たちの存在価値は、他の運用会社ではできないような、信頼に根差したお金の循環をつくっていくことなのだという想いを強く持ちました。
経営的には少しでも早く黒字化を実現する必要はあったのですが、必要以上に鎌倉投信を大きく見せたり、よく見せたりしなくてもいいというような、割り切りというか、腹落ちができたのです。結果、経営面における焦りのようなものがなくなり、自然体で事業に向き合えるようになりました。