方々で報じられていることなので、すでにご存じの方も多いと思いますが、個人金融資産に占める現預金の額はまったく減る兆しを見せることなく、ひたすら増額傾向にあります。
戦後の歴史をたどれば、日本人の現預金信仰の理由が分かる
日本銀行が公表した2021年第3四半期の資金循環統計によると、個人金融資産の総額は1999兆8000億円で、このうち現預金は1072億円で53.6%を占めています。現預金残高の過去の推移を見ても、同統計で公表されている2019年12月末から2021年9月末時点まで、8四半期連続で前年同期比を上回っています。
日本人の現預金信仰は今に始まった話ではありません。戦後からずっとその傾向が続いています。戦後復興を果たした日本は1950年代、1960年代と高度経済成長期に入っていくわけですが、この間、日本は慢性的な資金不足状態に陥っていました。戦時中の多額の戦費と戦後賠償でどんどん日本国内から富が流出したのですから、当然の成り行きです。
そこで戦後の日本を金融面でサポートさせるためにつくられたのが、銀行を中心とした間接金融のシステムです。かつて銀行といえば「都市銀行」、「長期信用銀行」、「信託銀行」、「地方銀行」、「相互銀行」があり、協同組織金融機関として「信用金庫」、「信用組合」、「労働金庫」、「農業協同組合」、「漁業協同組合」などが、それぞれのテリトリーにおいて預貯金を通じて集めたお金を貸出に回して、利ザヤを稼いでいました。
なぜこれだけたくさん間接金融を担う金融機関が存在したのかというと、日本全国の隅々まで集金ネットワークを張り巡らせることによって、日本の経済復興に必要とされるお金を、日本の個々人から集めるためでした。そのなかで「預貯金は美徳」とされ、子どもの頃から親に「お小遣い、お年玉は貯金しなさい」と言われ続けて育ったため、手元に現金がある程度あったら預貯金にするのが当然と考える人が増えました。
それは高度経済成長期にあった日本にとって、有効に機能したのは事実だと思います。間接金融ネットワークを構築している多数の金融機関を通じて資金が吸い上げられ、それが効率的に企業などへの融資に回されるという金融の流れが構築されたのだからこそ、大企業から中小企業に至るまで金融機関から資金を借り入れて設備投資ができ事業を展開できたのです。