お金は集まれども、使い道がない預金

当然、こうしたシステムのなかでは金融機関側に、少しでも多くの預貯金を獲得しようというインセンティブが働くので、どの金融機関で働く人たちも足を棒にして預貯金集めに奔走しました。当時はお金を借りたいという人たちが非常に多かったので、金融機関からすれば預貯金を集めれば集めた分だけ、利益につながったのです。

では、今はどうなのでしょうか。東京商工リサーチが1月6日、2021年9月中間期における国内106銀行の預貸率をまとめ、発表しました。ここで言う銀行とは大手行(メガバンク)、地方銀行、第二地方銀行です。

預貸率とは、銀行に集められた預金の運用状況を示す指標のひとつで、預金残高に対する貸出残高の比率を示します。「貸出残高÷預金残高=(%)」で求められ、仮に貸出残高が100億円、預金残高が150億円の場合、100億円÷150億円=0.6666、パーセンテージにして66.66%が預貸率になります。

この計算式からも何となく分かると思いますが、預金残高が貸出残高を上回れば上回るほど、預貸率は低下していきます。そして、預貸率が低いということは、集めた預金を十分に貸し出せていないことを意味します。

これは何を意味するのかというと、銀行員がいくら足を棒にしてお金を集めたとしても、それを借りてくれる企業などがいないということです。つまり大企業から中小企業に至るまで、どんどん設備投資をして業容を拡大して生産を増やしても、その生産物を買ってくれる人がいなければ、企業は大量の在庫を抱えることになってしまいます。それは企業としても避けたい事態。設備投資をしなくなるし、結果的に資金需要が後退して、銀行からお金を借りなくなります。

では、現実の数字はどうなっているのでしょうか。商工リサーチの調査によると、国内106行の預貸率は61.9%で、前年同期比で2.2ポイントの低下となりました。貸出金の合計額が571兆522億円で前年同期比0.1%増とやや増加したのに対し、預金の合計額は921兆5743億円で前年同期比3.6%増と大きく増えています。特に昨今はコロナ禍の影響で、各種給付金や助成金が銀行預金口座に支払われたこともあり、預金残高が大きく伸びた側面はありますが、過去の傾向から見ても、預貸率は低下傾向にあります。

このように預貸率が低下傾向をたどっている現状において、銀行は預金をたくさん集めたいとは思っていないことを理解しておくべきでしょう。預金をする側の個人は今も預金信仰が強く、手元にある現金を銀行に持って行って預金にしようと考えるでしょうが、お金を預けられる銀行は、それを喜んでいないのです。

預金を集めたくない銀行はどういう行動に出るのかを考えると、それは恐らく預金利率を底這い状態にし続けることだと思います。つまり資金需給の面から考えると、預金の利率は当面、上がることはなく、今の超低金利が継続すると見るのが妥当でしょう。