事例:ある株式ファンドの運用者インタビューに向けての準備

①から⑤を、株式ファンド(あいうえおファンド<仮名>)を事例として説明します。

(事例)
あいうえおファンドは、日本の全ての公開株式を投資対象に、独自の手法で、株価が極めて割安な水準に放置されている銘柄を発掘・厳選し、長期的な視点で集中投資を行うことで、TOPIX(配当込み指数)を中長期的に上回るリターンを挙げることを目指すファンドです。あいうえおファンドを初めて定性評価するにあたり、運用者へのインタビューが予定されています。

あいうえおファンドは運用を開始して5年を過ぎました。最初の3年間は時価総額の大きい成長株がマーケットを主導する上昇相場でしたが、直近の2年あまりはそれまでの主役であった大型成長株の株価は伸び悩み、中小型の割安株が見直される市場環境でした。

あいうえおファンドに関しては、運用会社が積極的な情報開示を行っており、当該評価機関にも過去の保有銘柄と保有比率のリストが提供されています。

① 予想される運用成果の傾向とポートフォリオの変化
いわゆるディープ・バリュー銘柄への厳選投資を行うあいうえおファンドの運用成果やポートフォリオの変化には、以下のような傾向があると考えます。

(運用成果)保有銘柄の中心は、株価が割安に放置されている中小型バリュー銘柄となるでしょう。したがって成長株(グロース銘柄)が相対的に高いリターンを上げる時には相対的に弱く、割安株(バリュー銘柄)が強い環境下では他ファンドよりも相対的に高いリターンを上げる傾向があると思われます。同様に、大型株相場では他ファンドに劣後するでしょうが、中小型株が優位の環境では、相対的に優れたリターンを挙げると考えます。

(ポートフォリオの変化)市場環境の変化に関わらず、独自の尺度で極めて割安と考えられる銘柄への集中投資が継続することが期待されます。その表れとして、ポートフォリオの割安度を示す指標、例えば加重平均のPER(株価収益率)や配当利回り等は、市場平均よりも常時割安な水準にあると思われます。

② 実際の運用成果とポートフォリオの変化との照合
上記のような、あいうえおファンドの特性から想定される運用成果の傾向やポートフォリオの変化を、実際と比較します。

(運用成果)想定通り、最初の3年間の大型グロース株中心の市場環境では、大半の日本株ファンドに劣後する運用成績でした。しかしながら、直近の2年間では、やはり想定通り、中小型バリュー株相場の下、逆に大半の日本株ファンドをアウトパフォームする成績を挙げています。なお、業種ごとにパフォーマンスへの貢献度を測ってみると、前半ではマイナス寄与であった小売銘柄が、後半ではプラス寄与に転じています。

(ポートフォリオの変化)期待通り、ポートフォリオの割安度を示すP E Rや配当利回りで見ると、運用開始来一貫してTOPIXよりは割安な水準となっています。 また上位銘柄の顔ぶれにも大きな変化は見られません。上位銘柄の多くは、継続して保有することで、最初の3年間パフォーマンス上マイナスに寄与したものの、その後の2年では大きくプラスに貢献していると考えられます。一部の上位銘柄では、最初の3年間に投資比率をさらに引き上げており、この追加投資もプラスに寄与しています。ただし、最初の3年間で投資銘柄数は増加しており、組入比率は小さいものの、一般的にはバリュー株とは分類されない銘柄の組み入れが行われています。これらの新銘柄は、比率が小さいため影響度は小さいものの、直近の2年間ではパフォーマンス上の足かせとなっています。