日本の向こう5年間は、いかなるメインシナリオか

――「変革の時代」では国ごとのばらつきが大きくなるとのことですが、日本経済については向こう5年間、どのようなメインシナリオを想定していますか。

セキュラー・フォーラムは、世界的なトレンドを議論する場で、個別の国に関しての言及はありませんので以下は私見となります。

3つのトレンドに沿ってお話をすると、まず、日本の場合、財政は制約条件になるでしょう。グリーン経済への移行には相当な財政支出が必要になりますが、日本は高齢化・長寿化によって巨額の社会保障費がかかり、その負担は年々増大しています。その上で、グリーンエネルギーに対してどのくらいの財政支出ができるのか、憂慮されるところです。

そして、労働市場の柔軟性不足です。労働者が1つの企業や職種に留まらず、スキルを磨き、生産性の高い職業にチャレンジしていくという、欧米ではあたり前の雇用慣行が、日本では確立されていません。このままでは、生産性上昇による成長の恩恵はなかなか享受できないでしょう。

また、格差の問題について、今日の議論はややポイントがずれている印象があります。他の主要国でみられる富裕層と中間層の間に存在する格差問題よりも、日本では、若年層と高齢者における世代間格差の方が深刻ではないでしょうか。急速な高齢化による社会保障費負担の増加に加えて、長年にわたる低成長がもたらした損失は若年層ほど大きいからです。労働市場や年金制度の改革こそ急務でしょう。

これらの課題を踏まえると、向こう5年間の日本のマクロ環境はあまり芳しくないと言わざるを得ません。

ただし、ミクロではポジティブな材料があります。個別の産業をみれば、世界レベルで競争優位性があるカテゴリーは少なくありません。例えば、再生可能エネルギーをとってみても、水素エネルギー、ハイブリッド技術、燃料電池、石炭リサイクルなど、グリーン経済でカギを握るテクノロジーで高い技術力を有する企業がたくさんあります。

――日銀の金融政策についてはどのような見方ですか。レポートの中では「向こう5年については、金融市場の優位性から、FRB(米連邦準備制度理事会)をはじめとする中央銀行が政策を大幅に引き締めることは再び困難になる可能性」とのことですが、次の経済サイクルでは日銀は利上げに踏み切る可能性はどの程度あるでしょうか?

前回の利上げ局面でFRBは、政策金利であるFF金利の目標レンジを2.25%~2.5%に引き上げた後、金融市場のリスクによって、2019年には1.5%~1.75%に下げました。これはコロナウイルスによるパンデミック以前のことです。現在はすでにテーパリング(量的緩和の縮小)が開始され、2022年の利上げが織り込まれていますが、ターミナルレート(利上げの終着点)は2019年よりも低くなると予想しています。FRBがこうしたスタンスであれば、日本をはじめとする主要国の金利の天井もおのずと低くなります。

また、日本については、そもそも2%というインフレターゲットが達成可能なのか、という問題があります。黒田日銀総裁の任期は2023年4月で、その時点の政権の考え方にもよりますが、次の総裁就任を機に金融政策の目標が変わり、利上げに向かうという可能性は、現状、かなり低いでしょう。

――2022年以降の世界経済・マーケットを見ていくうえでヒントとなる視点をたくさんいただきました。本日はどうも、ありがとうございました。

インタビュー/小池 正芳(『オルイン』編集長)