2021年9月29日の自由民主党総裁選で勝利し、10月4日の臨時国会にて第100代内閣総理大臣に指名された岸田文雄氏。総裁選では数十兆円規模のコロナ対策や、「成長と分配の好循環」といったスローガンを掲げた岸田首相に、市場の反応は必ずしも好意的ではなかった。日経平均株価は、岸田氏が新総裁に就任した9月29日から10月6日までで、2000円近く下落。8営業日連続の下落は実に12年ぶりだという。

そんな岸田政権だが、10月14日、内閣が発足してから異例の短期間での衆議院解散に踏み切った。「これから国民の判断をいただかなければならない。大変厳粛な気持ちだ。われわれが何を目指しているのかを訴えていきたい」とのコメントも発したが、岸田政権はどのような政策をとろうとしているのか――特に、個人投資家の目線から注目すべき7つの政策について、紹介する。

【政策1】金融所得税制

「成長と分配の好循環」は国の経済を成長させ、拡大した利益を公平に分配することで国民生活の幸せを目指すというスローガンだ。

成長戦略、分配施策のなかでも特に注目を集めるのが、岸田首相が分配の選択肢として挙げた金融所得課税の見直しだろう。

現行では、株式の譲渡益や配当金など、金融所得にかかる税金は一律で約20%。この税率を上げようという動きがある。なぜ金融所得に対する増税が分配につながるのか。背景にあるのは「1億円の壁」の問題だ。

一律約20%の税金がかかる金融所得に対し、給与所得は所得が多いほど税率が上がる、累進課税制度を採用している。税率は5%から45%の7段階。課税所得が4000万以上なら、税率は住民税含めて55%となる。

所得の多い人により多くの税金を納めてもらうための仕組みだが、実際は収入が一定を超えると税負担の割合が少なくなるという逆転現象が起きている。

合計所得金額別の所得税負担率

国税庁『申告所得税標本調査 令和元年分調査』統括表より筆者作成

これは所得全体に占める金融所得の割合が、富裕層になるほど相対的に高くなる傾向にあるためだ。ピークが1億円であることから、「1億円の壁」として問題視されている。

金融所得の税率引き上げは税収を増やし、金融資産の多い富裕層から中間層や低所得者へ富を分配する狙いがあるというが、市場からは投資意欲の妨げになるのではという懸念もある。

なお、岸田氏は金融所得課税の見直しについて、当面は実施を考えていないと言及している。ただ、どれほど上がるのか、金融所得の多寡に関わらず一律での増税なのかは、投資家にとって目を離せない政策といえるだろう。

【政策2】公的価格の抜本的見直し

岸田首相は自身の政策集のなかで、看護師や介護士、幼稚園教諭や保育士など、公的に決まる賃金の引き上げを挙げている。

令和2年賃金構造基本統計調査のデータによると、手当などを除いた看護師の所定内給与額は309.1万円。国税庁の発表では、1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たり平均給与は461万円であり、30%以上低い。

10月8日に行われた所信表明演説で岸田氏は、「分配なくして次の成長なし」とも述べている。

モノやサービスを提供する企業は、商品を購入してもらうことで利益を上げられる。消費者の家計に余裕がなくなり購入が減少すれば、企業の成長も見込めない。

看護師や介護士の賃金引き上げは生活に余裕を生み、消費を促す効果が期待できる。特に外食産業やエンターテインメント業界など、余暇を楽しむための分野に追い風になるといえるだろう。