投資の大原則は、「安いところで買って、高いところで売る」ことである。足元のように株式市場が上下に動くと、「基準価額が下落したタイミングを狙って、ピンポイントで投資信託を購入できたら……」という欲が沸々と湧き上がってくる方も多いのではないだろうか。

刻々と株価が変動する株式とは異なり、投資信託は組み入れている株式や債券などの時価評価を基に基準価額が算出され、1日1回のみ公表される。では、その投資信託で、ピンポイントのタイミングを狙った取引を行うことは可能なのだろうか。

投資信託の「約定日」は投資先によって異なる

答えは、原則「ノー」だ。投資信託は、「ブラインド方式」と呼ばれるルールによって、取引の段階では基準価額が分からない仕組みになっている。これは、すでに確定し、公表された前日時点の基準価額で投資信託の取引ができてしまうと、その基準価額を見た投資家の取引が殺到するなどして、結果的に既存の保有者(受益者)に不利益が生じてしまうためだ。投資信託の購入・解約を申し込んだ時点では、適用される基準価額はまだ決定しておらず、申し込みの締め切り後に算出される基準価額(これを約定価格という)で約定が成立する。なお、この約定価格が決定するタイミングのことを約定日という。

実は、この約定日は投資信託の投資先が国内であるか、海外であるかによって異なる。

一般的に、投資先が国内の場合、適用される基準価額は申し込みをした当日中に決定する。したがって、例えば日経平均株価に連動するインデックスファンドの場合、極端に言えば取引終了間際の15時ギリギリまで日経平均株価の動向を見て、購入や解約の判断をすることもできないわけではない。15時までに申し込みを済ませた投資信託の購入や解約注文に適用される基準価額は、当日の日経平均株価を反映したものになるためだ。

一方、投資先が海外の場合、適用される基準価額は申し込みをした翌営業日(原則)に決定する。S&P500種株価指数やニューヨーク・ダウ平均株価の場合、申し込んだ日の翌朝(日本時間)の終値と為替レートを反映して基準価額が算出され、これが約定価格となる。したがって、前日のニューヨーク株式市場が大きく下落したのを見て投資信託を購入・解約しても、その終値が投資信託の基準価額に反映されるわけではない。こうした理由から、ニューヨーク株式市場が大きく動いたタイミングを狙って、ピンポイントで取引をするということは事実上不可能である。