日本に比べ段違いに厳しい、アメリカの医療・介護事情

これがアメリカだったらどうでしょう。健康保険制度だけでも手に負えない状態になっているアメリカには、国の介護保険などというものはありません。

地域包括支援センターもありませんし、ケアマネージャーさんが一人ひとりに付いてくれるシステムもありません。

また、私の帰国前、実は母が脱水症状で病院に運ばれたということがありました。その後、帰宅できるまで回復したものの、自宅看護があまりに厳しい父の状態を見かねて、ケアマネージャーさんと病院側との配慮で引き続きその病院に入院させてもらっていたのです。

このようなこともアメリカでは絶対ありえません。「無駄な入院」は保険会社が許可するわけもなく、個人的な事情などは全く配慮されず退院させられます。またもし入院させてもらえても、一日の入院費(手術などの処置料金の除く純入院費用)の全米平均は$2,607(約24万円)であることを考えると、入院もしていられないというのが実情です。母の場合は、1か月ほど入院させてもらったのですが、心臓にペースメーカーを入れているため身体障碍者と見なされ、医療費が(ほぼ)無料だとかで、全部で払った費用も数万円でした。

アメリカは入院も高いですが、介護施設費用も高いです。いわゆるナーシングホームと呼ばれる老人ホームの入居は、数人でシェアするタイプで月額$7,756(約70万円) 、個室だと$8,821(約80万円) です。都市部なら100万円くらいまで上がります。

この多大なる介護費用に備えるため、アメリカにも長期介護保険というものは売られています。これは国の制度としてではなく保険会社の商品として売られているもので、アイデアとしては健康が衰えていく前の50歳半ばくらいまでに加入し、年齢によりますが夫婦で年間数千ドル(数十万円)の保険料を納め、もしも長期介護が必要になったときには数十万ドル(数千万円)までを限度に保険金を受け取るというもの。

ただこの保険、それほど浸透はしていません。保険料も安くはなく、加えて保険料が年に数パーセント、多いと8パーセントくらいの率で毎年値上がりしていき、もしも途中で解約すれば何も戻らずもちろん将来の補償も受けられないというものだからです。

このためある程度余裕がある人は、自分でこの介護費用も貯めておく、つまり老後の生活資金だけでなく介護費用も含めて用意をするのが普通です。年々数パーセントも上がっていく保険の代わりに、自分でできるだけ確定拠出制度やその他の投資口座などを利用し、運用によって資産を増やしておくという考え方です。

さらに、持ち家を所有する人であればもう少し対処法が増えます。例えば、持ち家を売り、その売却金をもとに施設に入るということも可能です。あるいは、日本でも少しずつ知られるようになっているのでしょうか、リバースモーゲージという方法もあります。これは、家を担保にお金を借りて介護費用のために使い、最終的には本人が死亡したときに家を売却して負債を返済するという方法です。いずれにせよ、公的介護保険制度というものがないアメリカでは、とにかく“自助努力”なのです。

こんなアメリカに住んでいると、本当に日本は良い国だと思います。父は、介護保険負担限度が増えるだの、医療費負担が増えるだのますます厳しい世の中だ……などと言っていますが、それはそうなんでしょうが、でもレベルが段違いに厳しいアメリカにいると、日本は天国のようだと思うのです。