個人的な“逸脱”では説明できない
販売員の不祥事を、本人の倫理観だけに帰着させてはならない――金融庁は8月6日に公表した「2026年 保険モニタリングレポート」で、こうした課題認識を打ち出した。
保険営業の基盤は、顧客との長期的な信頼関係だ。それは強みになると同時に、会社から見えにくい一対一の関係を生み、私的な投資勧誘や金銭授受に転用される危険も抱える。
最近の事案は、こうした問題が一社固有のものではないことを示している。
プルデンシャル生命では、社員・元社員106人が投資話や金銭貸借などを通じ、在職中と退職後を合わせ、約30億8,000万円を受け取っていた。明治安田生命や住友生命でも、元営業職員が架空の高利回り商品などを装い、顧客から資金を受け取る事案が発生した。ソニー生命でも、元営業社員が社員向け持株会で未公開株に投資できるなどと偽り、保険の解約・減額を促して解約返戻金を詐取した事案が明らかになった。
共通するのは、「社員だけが扱える商品」「特別な高利回り」「会社とのつながり」といったストーリーの語り口である。顧客が信じたのは商品だけではない。担当者の肩書、長年の関係、その背後にある会社の信用だった。
不祥事を育てる土壌とは
背景には、共通する構造がある。第一に顧客関係の密室化、第二に高業績者への牽制の弱さ、第三に販売実績に偏った報酬・評価制度、そして第四に管理の形式化である。
研修受講や点検表の提出だけでは、私的な投資勧誘や顧客との金銭関係までは見えない。必要なのは担当者別の苦情、解約、減額、契約者貸付、担当者変更などを組み合わせた予兆管理である。高業績者についても、顧客数や取扱額が大きいほど検証を厚くする。見るべきなのは、規程の有無だけではなく、「誰に、どのような兆候が現れているか」である。
保険代理店とIFAに共通する課題
保険モニタリングレポートは、一部代理店において、経営管理、法令等遵守、内部監査、募集記録の活用などに課題が残ると指摘する。乗合代理店では、複数社の商品を比較推奨するだけに、販売インセンティブと顧客本位との利益相反管理も重要になる。
ここで参考になるのが、日本証券業協会が7月14日に公表した「自主規制規則の見直しに関する検討計画」だ。
同計画に掲載された「IFAの管理体制に対する提言」では、IFAの増加、歩合比率の高さ、個人事業主型の多さなどを背景に、所属証券会社による管理が間接的になりやすいとの問題意識が示されている。これを受け、日証協は金融商品仲介業者の管理態勢について必要な対応を検討することとしている。
保険代理店とIFAは制度も商品も異なるが、販売主体が顧客と密接な関係を持ち、成果報酬の影響を受けながら複数商品を推奨する点では共通する。販売現場自身による一次管理、保険会社・所属証券会社による二次管理、業界団体と当局による基準整備・検証という多層的な管理が基本となる。
一次管理はシステムより組織要件から
もっとも、IFA自身に高度な横断管理システムを整備させることには限界がある。小規模IFAや個人事業主に大規模な共通プラットフォームへの投資を求めても、持続可能とは限らない。
先に検討すべきは、一定の管理機能を備えた主体が業務を行うための組織要件ではないか。例えばIFAの法人化を促し、販売担当者とは一定程度独立した内部管理責任者や機能を設ける。販売と管理を実質的に一人で兼ねる個人事業主型については、新規参入時の要件見直しや経過措置を施したうえでの禁止も想定しながら、制度のあり方を検討する余地がある。
複数の証券会社と契約するIFAについても、全顧客の取引を統合管理する方式だけが解ではない。他社での取引状況について一定の報告ルールを設け、各証券会社がIFA単位で売買傾向、商品構成、手数料、乗換え、苦情などを確認する方法も一案だろう。これにより、特定のIFAに乗換えや手数料負担の偏りが見られれば、そこから個別取引を深掘りする。つまり、リスクベース管理である。
この仕組みは所属証券会社の管理を弱めるものではない。IFA自身の一次管理を前提に、その実効性を所属会社が検証する関係を明確にすることに意味がある。
情報共有と顧客への直接確認
複数社にまたがる取引を深く検証する局面では、一定水準の情報連携も必要になる。
例えば、業界団体などの第三者機関を介し、必要最小限に加工したデータやIFAを識別できる共通IDなどを用いて異常傾向を分析し、該当する所属会社にリスク情報を返す仕組みが考えられる。異常が認められた場合に、法令や顧客同意を踏まえて個別取引を確認する段階的な設計であれば、管理効果とプライバシー保護を両立させやすい。
さらに重要なのが、顧客への直接確認だ。所属証券会社や保険会社が顧客に直接連絡し、「担当者から会社を通さない投資を勧められていないか」「個人的な送金や貸付けを求められていないか」を確認する。担当者を介さず顧客の声が会社に届く経路は、書類点検では捉えにくい不正への強い牽制となる。
もっとも、長年の信頼関係があれば、顧客自身が不正と認識しないこともある。定型質問だけでなく、実際の手口や会社を通さない取引の危険性を伝えながら確認する工夫が必要だ。なお、全顧客を対象にすることが理想ではあるが、まずは、高齢顧客、多額取引、解約・減額、担当者の突出した販売実績などから対象を絞り込んで確認することから始めても良いだろう。
多層管理は不適切販売にも応用できる
この考え方は、金銭不祥事だけでなく不適切販売の予防にも応用できる。外貨建保険や変額保険などの貯蓄性保険では、為替リスク、解約控除、市場価格調整、保険関係費用などが顧客に理解されにくい。外貨建保険は販売量が減少する一方、苦情発生率は他の保険商品より依然高く、市場価格調整に関する苦情も残る。重要情報シートを交付したかだけでなく、その顧客に販売する合理性があったかを見る必要がある。
代理店や担当者単位で、早期解約率、乗換率、苦情、高齢者や投資未経験者への販売状況などを比較すれば、販売行動の偏りを捉えやすい。商品カテゴリーを越えて顧客成果を見る視点と、販売主体ごとの異常値を見る視点は共通している。
誰が、何を見るのか
金融庁はこれまでも、保険会社や代理店への検査・モニタリング、対話、業界団体の自主的取組のフォローを重ねてきた。よって、今回の不祥事だけで、これまでの監督が機能していなかったと評価するのは適切ではない。一方、複数社で長期に不祥事が発生した以上、各社の管理態勢を確認する手法だけで、販売現場に潜むリスクを十分に捉えられていたのかについては、今回の事案を契機に検証する余地がある。
今後重要になるのは、誰が、何を見るかという役割分担であろう。IFAや代理店は担当者の日々の行動を見る。保険会社や所属証券会社は、IFA・代理店、担当者単位の異常を見る。業界団体は個社では見えにくい横断的な不祥事パターンを見る。当局は、それぞれの管理が実際に機能しているかを見る。そして顧客には、担当者を介さず会社へ声を届ける経路を用意する。
金融庁がオンサイトとオフサイトを組み合わせ、財務局を含めて代理店モニタリングを強化する方向も、こうしたリスクベースの発想と整合する。一律に管理負担を重くするのではなく、データと顧客確認から高リスク先を抽出し、監督資源を重点投入する方が実効性は高い。
販売現場が「人」を見て、所属会社が「異常」を見て、業界団体が「横断的な兆候」を見て、当局が「管理の実効性」を見る。誰か一人に監督責任を負わせるのではなく、それぞれが異なる角度から異常を捉え、次の管理主体につなぐ。その重なりを制度として設計することが、販売チャネルへの信頼を持続させる現実的な方向性ではないだろうか。

