個別商品の検証から、業務運営の構造へ
金融庁が7月29日に公表した「リスク性金融商品の販売・組成会社による顧客本位の業務運営に関するモニタリング結果(2025事務年度)」(いわゆる「FDレポート」)の特徴は、個別商品の販売上の問題だけでなく、それを生み出す経営管理の構造に踏み込んだ点にある。
昨年度の報告書は、外国株式、ファンドラップ、外貨建一時払保険、仕組債、投資信託など、商品別の販売・管理態勢を主軸に検証しつつ、経営陣の関与やPDCAの必要性を提起していた。
これに対し今回は、後者の問題意識を前面に押し出し、経営理念、リテール戦略、営業目標、業績評価、商品導入、販売、事後検証までが、「顧客本位」という一本の軸でつながっているかを点検している。
顧客の総資産を把握し、長期・分散投資を軸とした提案が実践されているかも重要な焦点となっている。昨年度が商品別の販売実態を起点に問題を捉えた報告書だったとすれば、今回は「なぜ同種の問題が、商品を替えて繰り返されるのか」を経営管理の構造から問う報告書である。
問題商品の停止という「応急処置」の限界
金融庁は、投資信託の回転売買、仕組債の早期償還後の再販売、外貨建一時払保険の乗換販売、外国株式の短期売買など、過去に指摘した問題が形を変えて続いているとみている。
背景として指摘されたのは、主に三つである。顧客本位を掲げながら、営業目標や評価制度が短期収益を優先させていること。本部方針が営業現場に十分浸透していないこと。そして、問題発生後の対応が個別案件の処理にとどまり、根本原因の分析や業務運営の見直しに至っていないことである。
今回、金融庁が伝えようとしているのは、問題商品の販売を止めるだけでは十分でないということだ。収益目標、商品選定、販売員教育、顧客情報、事後検証のいずれかに同じ誘因が残れば、問題は別の商品で再現される。
顧客本位とは、単に方針を公表することではない。経営判断から現場の行動までを整合させ、顧客に生じた結果を踏まえて、経営の仕組み自体を修正し続けることである。
好事例は「評価」と「データ」を変える
参考になるのは、営業目標と業績評価の見直しである。個人への収益目標の割当てを廃止し、預かり資産残高の純増や顧客との継続的な関係を重視する事例、本部と営業部店が対話し、それぞれの顧客基盤に応じた目標を設定する事例が紹介された。
大切なのは、単に販売額を評価対象から外すことではない。顧客との対話、提案内容、保有期間、アフターフォローなど、自社が顧客に提供したい価値を評価項目に置き換えることである。顧客本位の項目を設けても配点が低ければ、現場の行動は変わりにくい。評価制度は、経営の意思を現場に伝える装置である。
データ活用にも注目すべき好事例がある。他社で保有する資産を含めて顧客の金融資産全体を把握し、資産間の相関や目標ポートフォリオとの乖離を可視化する提案ツール、通話録音をAIで分析し、顧客の理解不足や意向との不一致が疑われる会話を抽出する取り組みである。
担当者個人の経験だけに依存せず、提案や管理の品質を一定水準に保つ効果が期待できる。もっとも、顧客情報が古ければ、どれほど高度な分析も誤った前提に立つことになる。デジタル化の成否は、画面上の機能よりも、顧客データの鮮度と正確性に左右される。
プロダクトガバナンスは販売後が本番
今回も「プロダクトガバナンス」は重要な柱である。
商品導入時には、顧客ニーズとの適合性だけでなく、リスク、リターン、コストの合理性を検証し、顧客にとって十分な付加価値があるかを確かめる必要がある。
さらに重要なのは導入後である。販売額や残高が少ないという理由だけで、商品の改廃を判断してはならない。運用実績、苦情、コスト控除後のリターン、想定した顧客層と実際の購入顧客との乖離を継続的に確認し、必要であれば取扱停止や商品性の見直しに踏み込むことが求められる。
好事例として、役員、営業部門、商品部門、リスク管理部門などが販売状況や苦情を横断的に検証し、取扱停止を含めて議論する態勢が示された。一方、導入後の検証が一部商品に限られる、改廃基準が販売実績に偏る、想定顧客層との整合性を確認していないといった事例が見られ、課題も残る。
販売会社から組成会社への情報還元が不十分であれば、商品設計の妥当性を検証する循環も働かない。プロダクトガバナンスとは、売れる商品を選ぶ仕組みではない。組成から販売、保有、償還まで、顧客に提供する価値が保たれているかを問い続ける仕組みである。
拡大するプライベートアセットファンドをどう管理するか
こうしたプロダクトガバナンスの実効性が、特に厳しく問われる商品の一つが、今回詳しく取り上げられたプライベートアセットファンドである。
国内の公募販売における預かり資産残高は約1.5兆円に増加している。非上場企業への資金供給や投資対象の分散に資する一方、流動性、情報開示、資産評価の透明性や評価頻度は、上場商品と大きく異なる。価格変動が小さく見えても、評価頻度が低いため、リスクが表面化していない可能性がある。
モニタリングでは、十分な金融資産を持つとは言い難い顧客や、投資想定期間が短い顧客への販売、保有金融資産の50%を超えて購入した例や顧客情報が更新されていない例が確認された。販売員の商品理解や研修態勢の不足も指摘されている。
実務上の留意点は三つある。
第一は、流動性と投資期間の整合である。換金制限や資産評価の不確実性を一般論で説明するだけでなく、顧客の資金使途や投資可能期間と結び付けて確認する必要がある。
第二は、総資産に占める保有割合の管理である。個々の商品について適合性を判断するだけでなく、低流動性資産が顧客の金融資産全体に占める割合を把握しなければならない。
第三は、顧客属性の継続的な把握と共有である。金融資産額、余裕資金、投資経験、投資期間などを踏まえた勧誘開始基準を設け、組成会社と販売会社が購入顧客の属性や運用状況を継続的に共有することが重要となる。
一定以上の金融資産を持つ顧客に販売を限定し、低流動性商品の保有割合に上限を設ける好事例も示された。重要なのは、その数値を一律の規制値とみることではない。各社が商品特性と顧客基盤に照らし、なぜその基準が妥当なのかを説明できることである。
共通KPIが示した顧客利益と事業利益の接点
巻末のコラムは、今回の報告書の中でも特に評価したい。
金融庁は、主要行等11先、地域銀行100先、証券会社12先の計123先を分析対象とし、2020年度から2024年度までのデータを用いて、投資信託の運用損益がプラスの顧客割合を示す共通KPIと、解約率、ストック収益比率との関係について回帰分析を試みた。ただし、必要なデータが欠落している金融機関は、それぞれの分析対象から除外されている。
2024年度のデータを用いた分析では、共通KPIが1ポイント上昇すると、平均的に解約率が約0.5ポイント低下し、ストック収益比率が約1.1ポイント上昇する関係が示された。また、解約率が1ポイント上昇すると、ストック収益比率が約0.7ポイント低下する関係も確認された。
ただし、共通KPIと解約率との間で統計的に十分有意な関係が確認されたのは、分析した複数年度のうち2024年度に限られる。相場環境などの影響も大きく、分析は因果関係を証明するものではない。
それでも、顧客の運用成果、継続保有、金融機関の安定収益の間に、一定の関連があることを数値で示した意義は大きい。顧客本位を理念だけでなく、見える化し、検証できる経営課題として捉え直した点を高く評価したい。
分析が示唆する経路は明快である。顧客が適切な商品を長く保有し、良好な成果を得ることが満足度や継続利用につながるのであれば、短期売買への依存は薄れ、預かり資産に連動する収益も安定しうる。顧客利益と金融機関の利益は、必ずしも対立するものではない。
もっとも、共通KPIを営業目標や社内外の順位競争に利用すれば、新たな歪みを生む。KPIは金融機関を採点する通知表ではなく、自社の取り組み、顧客成果、収益構造を同時に点検する計器として活用すべきである。
今後、顧客属性、商品区分、保有期間、提案内容などを組み合わせれば、どのような取り組みが顧客成果の改善につながったのかを、より具体的に検証できるだろう。
顧客本位を「経営の習慣」に
今回の報告書が問うのは、単に顧客本位の商品を取り扱っているかではなく、顧客本位の判断を継続的に生み出せる会社になっているかどうかである。
実務上の出発点は、取組方針、営業目標、業績評価、商品ラインナップ、販売データ、顧客成果を一つの流れとして並べ、経営の意思がどこで途切れ、どこで別の誘因に置き換わっているかを確認することだろう。
営業現場で起きる問題は、担当者個人の資質だけに帰せられるものではない。経営が設計した目標、評価、商品、システム、人員配置の不整合が、現場の行動として表れた可能性にも目を向ける必要がある。
「顧客本位」を単なる掛け声で終わらせることなく、日々の経営判断を点検し、修正する習慣へと変えられるか。今回のモニタリング結果は、その実践力が金融機関の信頼と事業の持続可能性を左右する段階に入ったことを示している。

