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「攻め」と「守り」の均衡点はどこに?--2026事務年度金融行政方針のポイント解説

川辺 和将
川辺 和将
金融ジャーナリスト
2026.09.17
無料
「攻め」と「守り」の均衡点はどこに?--2026事務年度金融行政方針のポイント解説

金融庁は9月15日、今事務年度の金融行政方針を公表しました。高市政権が掲げる「強い経済」実現に向けた新金融戦略を踏まえ、成長分野への個人投資家資金を含めたリスクマネー供給を拡大する方針を打ち出しています。「顧客本位の業務運営に関する原則」(FD原則)策定から10年の節目を控え、金融庁として「攻め」と「守り」のバランス感覚がいっそうシビアに問われる1年間となりそうです。

金融行政方針は毎年8月末ごろ公表するのが通例ですが、今夏の大規模な組織改編の影響で、今回は発表が翌月にずれこみました。

中身をみると、政府が7月に策定した「成長投資を促進するための金融戦略―資産運用立国のアップグレード」で示した方向性の具体策を前面に押し出しています。

 

たとえば、新金融戦略で17戦略分野を含む重点領域への成長資金の供給拡大が盛り込まれたことを踏まえ、スタートアップ企業等への成長資金の供給と個人投資家の選択肢の拡充を図るためとして、「顧客保護に十分留意しつつ、プライベートアセットへの投資に特化した個人投資家向け投資信託の制度改正について、2026年度中に一定の結論を得ることを目指し、関係団体と検討を進める」としています。社債については、取引情報報告・発表システムの高度化を進め、価格情報の公表対象銘柄の拡大や情報の追加、公表時間の前倒しなどを推進するとのことです。

新金融戦略では「地域金融力の強化」も打ち出していました。これについて行政方針では、「人口減少・少子高齢化や地域経済の担い手不足が進む中、地域経済が持続的に発展するためには、成長投資や M&A・事業承継、事業再生等に取り組む地域企業に対し、資金供給に加え、経営改善や人材確保等に関する支援を行うことが重要」との認識を示し、「地域金融機関が地域経済の「要」として、内外の多様な関係者と連携することを通じて、地域企業の価値向上と地域課題の解決に貢献できるよう、地域金融力の強化に取り組む」としています。

具体的には、地域企業の成長投資や M&A・事業承継、事業再生等に関するニーズに対応するため、地域金融機関による投資銀行サービスを含む支援能力の向上やメインバンク機能発揮を後押しする方針を示しています。

 

また、ビジネスの手法で地域課題の解決に取り組み、社会的インパクト(事業活動や投資によって生み出される社会的・環境的変化)を生み出しながら、収益を確保する企業を「ローカル・ゼブラ企業」と名づけ、そうした企業が手掛ける地域課題の解決に取り組む事業への資金供給を促進する「地域の資金循環検討会」を開催するとしています。この検討会は金融庁と中小企業庁が共同開催し、「社会的インパクトの価値を適切に評価すること等を通じて、資金提供者と資金調達者の相互理解の促進や両者の対話を円滑にするためのガイダンスの策定を行う」とのことです。

 

金融リテラシー向上に向けては、リテラシー水準や教育機会の充実度合いに地域差がみられるとして、「金融経済教育推進機構(J-FLEC)において、地域の関係者間の連携の実態を把握」した上で、関係省庁とも連携して「他地域での取組の紹介等を行い、こうした地域内の連携を後押しする」「各省庁、その地方部局及び地方公共団体に対し、J-FLEC の講師派遣やオンライン講座の活用を働きかけ、職域における金融経済教育の浸透を進める」としています。企業型DC・iDeCoの充実に向けては、「運営管理機関(金融機関等)が加入者目線に立った制度改善を提案することや運営面での効率化・合理化の取組を進めることを促す」ということです。

(金融庁公表資料より)

 

「検査マニュアル回帰」は否定

行政方針では、検査官の人材育成に関するプロジェクトチームを設けた上で、金融機関のガバナンスや主要なリスク管理態勢等について、モニタリング上の実践的な着眼点を研修資料として取りまとめる方向性も打ち出しました。

2019年の検査マニュアル廃止は(17年のFD原則策定とあわせ)、ルールベース行政からの脱却を象徴する出来事だっただけに、新たな資料の作成は「ルール回帰」との疑念を招きかねません。この点について報道陣から問われた金融庁幹部は「検査マニュアルを復活させようというわけではない」と説明。「検査官に、どういうところを見たらよいのかを考えさせる資料であり、チェックボックス式のマルバツのようなものに戻ることを意図したものではない」と述べています。

 

“成長投資”一辺倒ではない

行政方針の結びの部分では、金融庁全体の新スローガン「金融の信頼を守り、明日への挑戦を拓く。」を組織改革の基盤に据え、「守り」と「攻め」の両面で業務を遂行する環境を整えるとの考えを打ち出しています。

今事務年度中には、成長戦略の実現に向けたリスクマネー供給策の具体化や、NISAの対象商品の拡大など「攻め」のトピックが焦点化しそうです。一方、2017年3月のFD原則策定から10年の節目のタイミングも重なり、「守り」側とのバランス感覚を意識せざるをえない局面とも言えます。

「攻め」と「守り」の整合性について問われると、金融庁幹部は「金融仲介機能の発揮と金融システムの安定、利用者利便と利用者保護、市場の公正性・透明性と市場の活力というように、金融庁は相反する目的を同時達成する役目を負っている。時代時代に応じ状況を踏まえながら、シーソーのようにバランスを取っていくことが最も大事だ」と説明。その上で、このように述べました。

「不祥事が起きたから、とにかくモニタリングだけというのも必ずしも良くないし、成長投資が必要だからアクセル踏みまくるぞというのも、金融システムの安定や金融機関の健全性の確保という本来業務との兼ね合いで問題が生じると思う。どちらかに大きく振れるのではなく、とても小さな範囲内で矢じろべえのようにバランスを取っていくというのが我々の課題だ」

 

 

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著者情報

川辺 和将
かわべ かずまさ
金融ジャーナリスト
金融ジャーナリスト、「霞が関文学」評論家。毎日新聞社に入社後、長野支局で警察、経済、政治取材を、東京本社政治部で首相官邸番を担当。金融専門誌の当局取材担当を経て2022年1月に独立し、主に金融業界の「顧客本位」定着に向けた政策動向を追いつつ官民双方の取材を続けている。株式会社ブルーベル代表。東京大院(比較文学比較文化研究室)修了。
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