名刺や議員事務所にも「さつき色」
片山さつき氏が財務大臣兼金融担当大臣に就任した。財政・金融行政の両輪を深く理解する政治家が、久方ぶりに要のポストに座った。
筆者は、仕事の関係で片山氏と何度もお会いしているが、初めてお目にかかった時のことは今でも忘れられない。場所は永田町の議員会館事務所だった。名刺交換の瞬間、思わず息をのんだ。彼女の名刺は折り畳み式になっており、開くと数枚の小さな写真とともに、「『経済・雇用』と『安全保障』を両輪で強化!」というメッセージのほか、経歴・実績・政策などが細かく記載されていた。名刺というより、信念を伝える小冊子である。その一枚に、自らの歩みを刻む誇りと責任感がにじんでいた。
事務所の壁一面の棚には、膨大な薄水色のフラットファイルが所狭しと並んでいる。ファイルの背表紙には、例えば、財政、税制、金融、医療、教育、地方創生関連のタイトルがつけられており、どのファイルも使い込まれている。政策の守備範囲が驚くほど広く、同時に緻密だ。議員の執務室でありながら、まるで官庁の政策分析部署のような雰囲気を呈している。徹底した準備と調査が、片山氏の政治の根幹にあることを感じる。
片山氏は1959年生まれ、埼玉県出身。東京大学法学部を卒業後、1982年に大蔵省に入省した。財政金融分野で女性がほとんどいなかった時代に、金融制度改革や債券流動化の設計などに携わった。早くから制度を動かす現場に立ち、理論と実務を兼ね備えた少数派として頭角を現した。
衆議院を経て参議院に移り、自民党では税制調査会副会長、金融調査会長などを歴任。官僚出身の理知と、政治家としての行動力の双方を併せ持つ存在として、党内外から信頼を得てきた。
とりわけ注目すべきは、4年もの長きにわたる金融調査会長としての活躍である。金融犯罪への対応強化、フィンテック・ブロックチェーンの健全な発展、地方金融機関の人材・体制の充実など、実務に根ざした提言を積み重ねた。金融機関を取り巻く制度が複雑化する中で、利便性と信頼性の両立という理念を一貫して掲げてきた。
NISAの恒久化やiDeCoの利用促進にも積極的に取り組み、「貯蓄から投資へ」を単なるスローガンではなく、生活者の視点から支える制度へと高める努力を続けた。若年層の資産形成支援、金融教育の拡充、投資詐欺対策。いずれも現場の課題を踏まえた構想であり、制度を上から設計するのではなく、下から支える発想が貫かれている。
読者の皆様もよくご存じかと思うが、片山氏は、テレビやラジオで政治情勢の解説者として引っ張りだこだ。同氏の政策や経済をわかりやすく伝える表現力には定評がある。専門用語をかみ砕き、生活実感に落とし込む語り口は、官僚出身者としては異色と言える。政策を動かすには説明が必要で、その説明が人々の理解と共感を生むことを片山氏は熟知している。
それは行政の透明性にもつながる力であろう。
安倍晋三元総理との関係も深い。政権初期から女性活躍推進、地方創生、規制改革などの分野で閣僚として腕を振るい、アベノミクスの実践者として政策を現場に落とし込んできた。単なる支持者ではなく、実務を担う補佐役として安倍路線を支えたのである。
そのDNAを受け継ぐ形で、今回の大臣就任に至ったことは象徴的だ。安倍政権が掲げた「成長と分配の好循環」を、より現実的に、より構造的に再設計する局面がいま訪れている。国家の成長を支える金融政策の再構築、個人の資産形成を促す税制改革。その両方を理解し、統合的に動かせる数少ない人材といえよう。
高市首相から片山大臣へ10項目の指示
今回の大臣就任にあたり、高市総理は片山大臣に以下の10項目を指示している。そもそも、こうした指示事項が公表されるのは異例であり、高市政権が透明性の高い運営を行っていくとの意思表示のように思われる。
【高市総理からの指示事項】
①積極財政による経済成長の実現
②歳出・歳入改革と財政健全化の両立
③租税特別措置・補助金の適正化
④EBPM(証拠に基づく政策立案)による予算の効率化
⑤国・自治体発注の適切な価格転嫁の推進
⑥対日直接投資審査の高度化
⑦投資促進と資産運用の高度化
⑧地域金融の活性化と地方創生
⑨公正・透明な金融市場の整備
⑩少子化対策と税・社会保障の一体改革
どれをとっても重いミッションだ。特に、金融業界人にとっては、⑦・⑧・⑨が気になるところかと思われる。片山氏は、就任時の記者レクで、金融調査会長として長年取り組んできた事項であり、これからも金融庁とともにしっかりと推進していくと力強く述べていた。
また、①・②・③は、「経済再生と財政健全化を両立せよ」という指示だが、行政として、国債・長期金利・信用リスクを抑えつつ、成長投資・資本市場育成を進める難しいバランス取りが必要だ。 財務省出身の積極財政派議員である片山氏にとって、まさに相応しいミッションであろうが、与野党や他省庁・市場との密接なやりとりが求められる中、与党・政府の中で、どこまで攻めて、どこまで抑えるかの舵取りは難航が予想される。
しかし、片山氏はこれまでも幾多の壁を越えてきた。永田町でも霞が関でも、女性として初めての肩書を幾度も背負い、そのたびに結果で道を拓いてきた人だ。知力と胆力を併せ持ち、時に毅然と、時に柔らかく、制度と人を動かしてきた。今回もまた、荒波の中に舵を取る姿が目に浮かぶ。
片山大臣の挑戦が、この国の財政と金融に新しい息吹をもたらすことを信じたい。一人のファンとして、そしてこの国の行く末を案ずる者として、熱くエールを送りたい。

