前回のコラムの最後に、「人生には無駄に見えて実は重要なことが沢山あります。それも、アイスホッケーから学んだ一つです。この学びは、次回のコラムにてお伝えいたします。」と皆さまにお約束しておりましたので、今回もアイスホッケーの学びから入ります。
私がゴーリー(サッカーでいうゴールキーパー)として行っていた練習に、防具をつけたまま、ひたすら短距離のダッシュを繰り返すメニューがありました。ゴーリーはフォワードなど他のプレーヤーに比べて動き回ることが少なく、防具も圧倒的に重いため、アイスホッケーを始めた当初の私は、この練習はゴーリーにとって不要であると思っていました。
しかし、この地道なダッシュの繰り返しこそが、ゴール前の俊敏な動きにつながるのだと気づいたのは1年生の終わりの頃でした。地道な練習を積み重ねてもすぐに成果に結びつくかどうかわかりません。しかし、当たり前のことを平然とやり続けることで道が開けることを実感しました。それは、まさに社会で直面していることにつながるものでした。
地道な練習といえば、9月に誕生した大相撲新大関「大の里関」の師匠である二所ノ関親方(元横綱稀勢の里)の育成方針が、角界に言い伝わる格言「3年先の稽古」であると話題になりました。それになぞらえるつもりはありませんが、私が50代になってから資産運用会社で営業責任者をつとめた際の実践をお話いたします。
私の営業スタイルは「研修業」、それもほぼ「将来を見据えた研修業」でした。あるしびれを切らした金融機関の役員の方から「あなたの研修講義には、今日どのようにしてみかんをもぐか、リンゴをどうとるかの話がない。幹を太くし、枝葉を茂らせが大切なのはわかるが。」とお叱りを受けたこともありました。しかし時間差はあったにせよ、営業責任者としての使命を果たし、結果は出してきたと自負しています。すなわち、最終的に金融機関の皆さまのお仕事に貢献できたからでした。
投資信託の営業とは投資家であるお客さまに投資信託を販売する(売りつける)のではなく、お客さまがご資産の形成でどのような事をお考えなのかを聴き出し、それに対して的確なアドバイスを送ることではないか。これが私の持論でした。したがって、金融機関で営業に従事されている方に「もの(投資信託)を売るのではなく、お客さまにアドバイスを送れる人になろう。」と呼びかけていました。そうすれば時間は少しかかっても、結果として、お客さまはアドバイスを信じて、そのアドバイザーを通して投資信託をご購入される。研修がこのサイクルを実現するとの強い信念のもと、全国を行脚しました。
研修は一見無駄に見られがちです。何故ならば、研修は業績に直結するかどうかわかりづらく、具体的な数値を見込むことが困難だからです。アドバイス業務も同様と思われがちです。
しかし、時代は変わろうとしています。今年から新NISAがスタートしました。この制度は、我が国が「資産運用立国」を歩むうえで極めて大事であると考えます。資産形成は時間のかかる長い道のりを要するものです。それを成功に導くためには、販売ではなく、アドバイス。アドバイスの前にカウンセリングが当たり前のように根付くことではないでしょうか。アドバイスを専業にする会社を設立し、アドバイザー養成に注力している金融グループもあります。まさにアドバイス業務が、近い将来、本邦金融機関のスタンダードになるような気がしています。