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【みさき透】「またトラ」と運用立国と投資信託、資産運用ビジネスは日本を救うか

みさき透
みさき透
2024.11.19
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【みさき透】「またトラ」と運用立国と投資信託、資産運用ビジネスは日本を救うか

接戦との予想に反して今月実施された米大統領選はトランプ前大統領の圧勝に終わった。ペンシルベニア州など7つの激戦州を全て取り、総得票数でも対立候補のハリス副大統領を上回るなどまさに完勝だった。自らの権力基盤を固めたトランプ氏は今後、中国や欧州だけでなく、日本に対しても様々な場面で強烈な圧力を掛けてくるだろう。

そんな中でトランプ氏が歓迎する数少ない領域が資産運用ビジネスだ。外国株式、特に米国株式を大量に購入する我が国の投資信託は外交関係をビジネスの延長線上で評価する同氏にとって好ましいものに見えるはずだ。

日本が巨額な資金を米国に投じていることを理解すれば「ジャパンはお得意さん」とほくそ笑むかもしれない。

顧客への声掛けひとつアフターフォローの電話ひとつも世界の政治経済の激動につながっていると思えば、いつもの仕事に新しい意義を見出せるのではないか。

竹刀とフィルム、貿易立国路線にまい進で日米激突の歴史

日米貿易摩擦が激しかった1990年代、永田町や霞が関を駆けずり回っていた。当時のことで印象的な記憶はミッキー・カンター米通商代表部(USTR)代表と交渉するためスイスのジュネーブを訪れていた橋本龍太郎通産相が帰国した際の言葉だ。

ジュネーブの交渉ではカンターUSTR代表がふざけて橋本通産相の喉元に竹刀を突き付ける一幕があった(日米貿易摩擦を象徴する写真として有名)。そのことに話が及ぶとニヤリと笑って「カンターの写真を撮ったよ。コダックでなく富士のフィルムでね」と答えた。

少し解説が必要だろう。当時の貿易摩擦はその範囲がすさまじく広く、自動車やスーパーコンピューターから写真フィルムまでもが対象で、カンターUSTR代表らは「日本はもっと米国のコダックのフィルムを輸入すべきだ」と訴えていた。

米側が求めるコダックではなく、日本製品を使ったというささやかな意趣返しだ(ちなみに、その頃はデジカメも携帯電話もなく、フィルムで写真を撮っていた)。

米の対日貿易赤字は年10兆9400億円、
Slimの米株投資は年3兆6800億円

長々と昔話を書いたのは遅くとも米国は日本の金融自由化などを協議した日米円・ドル委員会があった1984年には我が国を経済上の脅威と見なしていることに思いをはせてもらうためだ。

理由はいたってシンプルで、日本の対米輸出が米国の産業を脅かし雇用を奪っていると彼らが考えるからだ。激戦州のペンシルベニア州に本拠を置くUSスチールの苦境もそのことを連想させているかもしれない(なお、鉄鋼は今でも日本の主力輸出品の1つだが、その主な輸出先は東南アジア)。

しかし、食料やエネルギーを海外に頼る日本は自動車などを輸出して外貨を稼ぐ必要がある。ではどうするか。そこで期待されるのが投資立国、さらには資産運用立国への道だ。

米商務省が3月に公表した2023年の貿易統計によれば、同年の米国の対日貿易赤字は約10兆9400億円(1ドル=153円で換算)。貿易立国にふさわしい規模だ。

一方、我が国は投資立国としての側面も持つ。再び米商務省に戻ると、7月に公表された資料に2023年末の日本の対米直接投資残高は約119兆8400億円(同)で、前年から3兆3800億円ほど増えている。

さらに、岸田文雄前政権は資産運用立国を提唱した。足元の実績を見ると国内最大の純資産総額を有する投資信託「e MAXIS Slim米国株式(S&P500)」の24年4~9月期の設定と解約の差額を示す純資金流入は約1兆500億円。これを単純に2倍すると2兆1000億円になる。

純資産総額が第2位の「e MAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」にも同時期に約1兆2500億円の純流入があった。同ファンドの米国株式の組み入れ比率は約63%なので、同国の株式に投じられた資金はおよそ7900億円。これを2倍すると1兆5800億円だ。

両ファンドの純流入の合計は3兆6800億円。時期はずれるが、5000本もある公募投信のうち、この2本だけで対米直接投資残高の年間増加額を上回り、米国の対日貿易赤字の3分の1をカバーする計算だ。

「日本はライバルではない。スポンサーだ!」
トランプ再選で資産運用立国が持つ意義 

日本を取り巻く構図を単純化して話を進めると食料やエネルギーを輸入するため我が国は外貨が必要だ。国内の産業や雇用を守るためにも輸出に力を入れざるを得ない。

米国はその最大のマーケットの1つだが、一方的に黒字を積み上げることは許されない。輸入拡大で対米黒字を縮小させることも、40年間にわたる日米両国の努力の結果が現状の貿易収支だとすると簡単ではない。

貿易摩擦を避けることをきっかけに広がった直接投資は残高が120兆円近くまで膨らんだが、年間の増加額を見るとまだ力不足だ。岸田政権が2023年に資産運用立国を打ち上げたとき、トランプ氏の再選を視野に入れていたかは分からない。だが、工場を建てたり企業の経営権を取得したりといった直接投資に代表される投資立国の顔に加え、資本市場で株式や債券を買う資産運用立国の色彩が加われば、我が国が米国に巨額の資金を投資していることが明確になり、トランプ氏の日本を見る目が変わるかもしれない。

資産運用業の発展は「我が国の安全保障を強化する」

ここで思い出すのは2012年にまだ「日本版ISA」と呼ばれていたNISA立ち上げのことだ。また昔話で恐縮だが、当時の金融庁の高官が「資産運用業が発展することは我が国の安全保障を強化する」と語った。

その頃はこの言葉の意味が理解できなかった。老後に備えた個人の資産形成が進めば社会保障を補強することは理解できるが、安全保障を強化するとはどういうことだろうかと。

その高官が現在のような極端な自国第一主義に米国が陥ると見通していたかは分からない。しかし、今はその言葉が重みを増しつつある。慧眼に敬服するばかりだ。

え!日本の投信残高が急拡大して米国の株式市場を支配したらどうするかって。トランプが激怒する?そこまで我われのビジネスが大きくなれば万々歳だ。オーパス・ワンで乾杯しよう。

 

接戦との予想に反して今月実施された米大統領選はトランプ前大統領の圧勝に終わった。ペンシルベニア州など7つの激戦州を全て取り、総得票数でも対立候補のハリス副大統領を上回るなどまさに完勝だった。自らの権力基盤を固めたトランプ氏は今後、中国や欧州だけでなく、日本に対しても様々な場面で強烈な圧力を掛けてくるだろう。

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みさき とおる
新聞や雑誌などで株式相場や金融機関、金融庁や財務省などの霞が関の官庁を取材。現在は資産運用ビジネスの調査・取材などを中心に活動。官と民との意思疎通、情報交換を促進する取り組みにも携わる。
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