先週末から日本株の乱高下が続いています。フィナシープロをご覧になっている皆さまのご労苦は察するに余りあります。今回は皆さまのお勤めのヒントになるコラムをお届けいたします。
8月に入ってからの極端な値動きを見るにつけ、私は2008年9月に起きた「リーマン・ショック」のことが脳裏をよぎりました。我が国ではリーマン・ブラザーズ証券の破綻から「リーマン・ショック」と呼ばれることが多いですが、国際的には「世界金融危機(グローバル・ファイナンシャル・クライシス=GFC)」と呼ばれます。
当時、私は合併から間もないメガバンク系の資産運用会社の営業責任者でした。お客さまは日本国内の投資信託販売に関わっていらっしゃる銀行や証券会社、そこで販売に従事されているアドバイザーの方々でした。
リーマン・ショックの直後、日頃お世話になっているお客さまから電話が入りました。「アドバイザーが困っている。投資家にどのように対応してよいものやら、頭を抱えているばかりだ。何か解決策はないだろうか」と。私は、数年前に受けた米国研修を思い出しました。米国の老舗証券会社であるエドワード・ジョーンズの研修でした。同社の研修の教えは「アドバイスの前にカウンセリング」「アドバイザーの前にカウンセラー」でした。
私は迷わず、エドワード・ジョーンズ社に「この危機を受け、貴社はどのような研修をするお考えですか」とメールを送りました。翌日に届いた返信のタイトルは「SCHOOL OF HARD KNOCKS」。直訳すれば「ハードノックの学校」ですが、辞書をひくと慣用句で「実務の学校」とありました。
メールの本文を読むと、その主旨が理解できました。いわく、今一番悩んでいる、一番困っているのは、他ならぬ投資家の方々である。何はさておき、アドバイザーは今こそ、投資家であるお客さまのご自宅に訪問すること。そして、お客さまに寄り添い、アドバイザーでもなく、カウンセラーでもなく、セラピストになること。エドワード・ジョーンズの最近の研修では、最終日まで受講した方に出口でゴルフボールを手渡している、と。「お客さまのご自宅の玄関をノックをし続けて拳(こぶし)が擦り切れるのはしのびない。せめて擦り切れる前に、拳のかわりにこのゴルフボールでノックを」という親心からでした。
リーマン・ショックが起きる直前まで、投資信託の販売残高で銀行と証券会社が拮抗していました。1998年の窓販解禁により、銀行が50年遅れでやっと証券会社に追いつくようになったのでした。ところが、リーマン・ショックを受けて各証券会社は積極果敢に投資家へ寄り添って信頼を勝ち得たのに対し、銀行は投資家から距離を置いてしまったように思います。
さて、問題はこの夏をどう乗り切るかです。証券会社にせよ銀行にせよ、アドバイザーが最優先すべきは、投資家たるお客さまにしっかり向き合ってコミュニケーションを取ることです。かかる時期に声をかけてくれたアドバイザーをお客さまは生涯忘れることはないでしょう。真の信頼が生れる瞬間といっても過言ではないでしょう。