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永田町・霞が関ウォッチャーのひとり言

【文月つむぎ】金融庁新布陣スタート 知っておきたい井藤氏・屋敷氏・油布氏の横顔

文月つむぎ
文月つむぎ
2024.07.08
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【文月つむぎ】金融庁新布陣スタート 知っておきたい井藤氏・屋敷氏・油布氏の横顔

5日付で発令された金融庁の長官・局長人事と各氏の人となりについて、長年、霞が関の動向をウォッチしてきた筆者の感想を述べてみたい。

新長官 井藤英樹氏 「縁の下の力持ち」の政策通

これまでの長官人事(2007年以降、下図参照)を見てみると、遠藤俊英長官(18年7月~20年7月)までは、検査局長、監督局長の歴任者が長官に昇格するというのが鉄板ルートであった。その後、氷見野良三氏、中島淳一氏と、監督局長や検査局長の経験がない長官が誕生した時は、「金融処分庁」から「金融育成庁」への転換を図る意欲を強く感じたものだ。

23年7月からは監督局長を4年連続(金融庁の最長記録)務めた栗田照久氏が長官となり、一見先祖返りしたように見えた。しかし、アフター・コロナにおいて金融機関が適切に金融仲介機能を発揮しているか、また、我が国を含め世界的に金利の上昇・高止まりが見られる中、金融機関がリスク管理を適切に行っているか等について目を光らせるうえでは、適切な人事であったと感じている。

 

こうした中、下馬評では、任期が1年に過ぎないうえに、ビッグモーターの自動車保険架空請求事件や損害保険大手の保険料事前調整問題、三菱グループのファイアウォール規制違反などに毅然と対峙してきた栗田氏(1987年旧大蔵省入省)の続投が有力視されていた。また、万が一交代がある場合には、財務省で4年の長きにわたり大臣官房秘書課長を務めた財務省エースの伊藤豊監督局長(89年旧大蔵省入省)が昇格するとの見方が主流であったところ、井藤英樹前企画市場局長(1988年旧大蔵省入省)が後任となったのは、サプライズ人事ではあった。

一方、井藤氏のこれまでの経歴・実績を踏まえれば、長官の器として全く申し分ないことがわかる。井藤氏は、近年、政策立案総括審議官、企画市場局長として金融庁の主要施策の立案に携わっており、庁内随一の政策通として知られている。筆者は、先般、財務金融委員会(衆議院)や財政金融委員会(参議院)において、金融庁が提出した法案(金商法等の法律の一部を改正する法律、事業性融資の推進等に関する法律)の審議を視聴していたが、井藤氏は政府参考人として理路整然とした答弁を展開し、各委員より高い評価を得ていた。

また、井藤氏は民主党政権下の2009年から10年にかけて大臣秘書官(事務取扱)を務めたこともあり、政界に精通しており、官邸との呼吸も合わせやすい。官邸は目玉施策として、資産所得倍増プランの推進や資産運用立国の確立を目指しており、金融庁において具体的な施策の立案・実行を担ってきた井藤氏を長官に抜擢することで、より確実に、より実のある成果を得ようとしたものと思われる。

筆者は、これまで井藤氏と会話する機会が幾度となくあったが、たとえ専門的あるいは複雑な内容であっても、話のポイントを押さえテンポ良く受け答えされており、頭が切れる優れた方だと尊敬している。「俺が、俺が」といったところが一切なく、どちらかというと縁の下の力持ち的な役回りをこなしてきた感があるが、これからは長官として、矢面に立って、施策遂行に邁進されることと思う。

新総合政策局長 屋敷利紀氏 日銀出身の「ギャングスタ―」

総合政策局長には、総合政策局審議官としてモニタリング部門のヘッドを務めてきた屋敷利紀氏(1989年、日銀入行)が昇格したのだが、これもサプライズ人事と言えよう。屋敷氏は日銀出身で、日銀考査局で大手銀行や地銀、信金の考査経験があり、岡山支店長就任後、2015年に当時の森信親金融庁長官に請われて総務企画局マクロプルーデンス総括参事官として金融庁に転籍、その後、メガバンクや地銀などのモニタリングに長らく従事してきた。

マクロプルーデンスでは、金融システム全体の状況とシステミック・リスクの分析・評価を通じて、金融システム全体の安定を確保することを目指す。一方、考査やオフサイト・モニタリングはミクロプルーデンスの手法であり、個々の金融機関の健全性確保を目指す。その両部門のヘッドとして活躍してきた屋敷氏は、まさに「鳥の目、虫の目」で、金融界及び個々の金融機関に内在するリスクを見極めることが出来る人材である。

ポストコロナ後の「金利ある世界」における金融機関の信用リスク、市場リスク管理の妥当性検証を担う局のヘッドとして、白羽の矢が立つのもむべなるかな、である。また、日銀転籍者が局長に就任するということは、民間など外部からの中途採用者の多い金融庁において新たなキャリアパスを示したことになり、職員の働く意欲向上にも資するのではないかと思う。

屋敷氏は、直近では、地銀系証券会社における仕組債販売において、経営陣に対し、その販売姿勢を厳しく問いかけ、多くの先で仕組債販売を取りやめさせたことが話題となった。ご存じの方もいると思うが、屋敷氏は、出身の京都大学ではアメフト部主将として、クォーター・バックの東海辰弥氏とともに京大最強時代を築いたアメフト界では名が知られた人物だ。京大アメフト部のチーム名は「ギャングスターズ」。これまで屋敷氏から指導を受けた金融機関の方々は、ギャングスターズ出身者の凄みを垣間見たのではないだろうか。

新企画市場局長 油布志行氏 森信親氏の腹心、次期長官の筆頭

企画市場局長には、総合政策局長を務めた油布志行氏(1989年、旧大蔵省入省)が就任した。森信親氏の腹心として、NISA・つみたてNISAの創設に携わるほか、日本版スチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コードの策定にも尽力するなど、金融庁において企画畑を長らく歩んできた。企画市場局長はまさに油布氏の力量を存分に発揮できるポストと言えよう。

油布氏は気さくで、性格も明るい方だ。国会では腰の低い丁寧な答弁に徹し、人のよさがにじみ出ていた。経歴、年次、人物から見て、次期長官候補の筆頭と言っても過言ではないように思う。

以上、金融庁の新布陣を見てきた。官邸の目玉政策である「資産所得倍増プラン」、「資産運用立国」の達成という『攻め』と、「ポストコロナの金利ある世界」における金融機関のリスク管理への目配りという『守り』を偏りなく遂行することが求められる金融庁において、適材適所の人選が行われたと言える。今後のご活躍に期待したい。

5日付で発令された金融庁の長官・局長人事と各氏の人となりについて、長年、霞が関の動向をウォッチしてきた筆者の感想を述べてみたい。

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民官双方の立場より、長らく資産運用業界をウォッチ。現在、これまでの人脈・経験を生かし、個人の安定的な資産形成に向けた政府・当局や金融機関の取組みについて幅広く情報を収集・分析、コラム執筆などを通し、意見を具申。
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