finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート
アクセンチュア式・金融DX人材の取説

アクセンチュア式・金融DX人材の取説① DXはバズワードにあらず。各社で独自の定義を

堆 俊介
堆 俊介
アクセンチュア オペレーションズ コンサルティング本部 マネジング・ディレクター
深澤 胡桃
深澤 胡桃
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 人材・組織プラクティス マネジャー
2023.05.25
無料
​

解決のカギ その1 求める人材像の「解像度」を上げる 

課題解決のカギは、求める人材を正しく定義し直すことだ。必要な「DX人材」は企業にとって千差万別である。人材像の解像度が低いまま、「何となくデジタルも変革もできるスーパーマン」を探している経営者は多いが、そのようなタレントはめったに存在しない。やみくもに(従来の枠組みで)優秀と評価されていた人材を選抜したり、漠然と「DX」のお題を掲げて現業と関連のない研修を導入したり、「デジタルラボ」と称して閉塞的な環境のみでトライさせたりといった手法でうまくいっている例は極めて少ない。

まずはシステムアーキテクチャーの刷新やクラウドサービスへの移行を進めるべきだ。そのためにも、仕事をするうえで必要な投資と配置に沿った組織のなかで、持つべきカルチャーと価値観に合致するデジタル人材の姿を定義し、その人材と仕事とを結びつける試みが必要になる。その際は、「ジョブ型」への移行は不可欠となる。高いスキルを持つ多様な人材を確保するためには、漠としたお題目に留まらず、求めるケイパビリティ(遂行するためのスキル・前提となる知識、経験)を細分化して社内外に打ち出していく取り組みが必須だ。

人材像の解像度を上げるべきだという意味でいえば、DX人材とグローバル人材はよく似ている。1990年代半ばにグローバル資本主義の進展・インターネットの普及によってグローバリゼーションが一般化し始めた。しかし日本社会が「グローバル人材」の必要性に気づき、それを提唱し始めたのはおよそ10年以上が経過した2010年ごろであった。

当時も各社こぞって「グローバル人材の獲得」に力を注いだが、「そもそも語学教育が不十分」「とりあえず海外に送り込んだが、パフォーマンスできず帰国」といった初期のつまずきから、何とか語学力の底上げをしても「グローバル展開の戦略・案件がそもそも不足」「英語堪能な人材を増やしたが、ビジネスにコミットしてくれない」といった具合であった。

今となっては、「グローバル人材」という曖昧なレッテルを使い続けている企業はほぼ存在しない。「企画力」「変革力」といった本来ビジネスに必要な行動指針やコンピテンシーに立ち返っていることが多い。そもそもハードスキルである「語学力」は短期間で習得できるものではないため、より若年期からの必修が義務化されたことは記憶に新しい。

 

解決のカギ その2 役割の明確化を

時代の潮流に乗ろうとして足りない人材をやみくもに追いかける「負のループ」から脱却するためのカギは、スキルの不足に注目するのではなく、そのスキルで何をさせたいのかを明確にすることである。十分な勉強の時間が取れなかったり、年齢的に多くを吸収できなかったりする中堅・ベテラン層に、本業の片手間で新技術を学ばせ、それを全く新しい形でビジネスに活用せよ!と外野が指示したところで、目の前の業務との乖離が激しく学ぶ意欲にはつながらない。

いかに本業の戦略と紐づく需要を個々人の「役割」にブレイクダウンできるか。アクセンチュアでは2022年に、”Work to Learn. Learn to Work.”(学ぶために働く。働くために学ぶ)という最新のラーニングセオリーを打ち出した。「足もとの仕事のための学習」「学ぶことが目的」という一方通行の思考から脱却し、 「業務を通じて学習を最大化」「将来の仕事に必要なスキルを習得」すべきだという意味だ。学びと仕事の両輪を回して、組織と社員が一体となって中長期の両者の成長を目指すアプローチである。ラーニングに納得感を持たせ、恒常的にサイクル化できるかが肝要となる。

 

実際にDX人材を定義するプロセス

DX人材の定義では、以下に掲げる①~⑧のステップを踏む必要がある。連載初回である今回は下記の①~④までを説明する。

 ①事業戦略・成長戦略の分解

 ②人材タイプの定義

 ③現状把握、課題分析

 ④人材ポートフォリオへの落とし込み

 ⑤スキルの定義

 ⑥ロールとのひも付け

 ⑦レベル、キャリアパスの設計

 ⑧従業員価値の定義

②でいう「人材タイプ」とは、その人材が自身の「ジョブ・ロール」を果たすために、どのようなケイパビリティを保持する必要があるかを定めたものである。新規事業の創出に寄与するタレントが欲しいのなら、必要な人材タイプは「ストラテジスト」である。「革新をもたらすアイデアを創出、社会課題を解決する事業を追求する」ために、必要なスキルは「変革シナリオ立案力」「サービス企画力」「CXO(=CEOやCTOといった責任者)との対話力」であり、知識は「財務・会計」「業界トレンド」「戦略フレームワーク」になる——といった具合だ。

ここでのポイントは、必ず自社のビジネスニーズを出発点に考えることだ。経営計画・事業計画を分解して、一般的なデジタル標準定義とロジカルにひもづけていく。世の中にあるスキル標準は参考にしながらも、自社がどこを目指すのか、できれば事業計画や成長戦略とセットで検討することが望ましい。もし基本的な戦略がなければ、現場で上がっている課題や数年先でのニーズから一旦定義しておいてもいい。

人材タイプの定義自体は、細分化しすぎてはいけない。最初はビジネス人材、テクノロジー人材、データ人材の3つを大別したうえで、人材タイプごとに何をさせたいのかを具体化する。

この際、「DX人材」に少なからず求められる「変革(DXの“X”)」力は、単なる技術力だけでなく、行動的な側面も強化する必要がある。例えば、チーム内外のメンバーとの意思疎通を通じてパフォーマンスを最大化する「コラボレーション力」、学習した技術知識を組み合わせ新たなソリューションを考案する「テクノロジー融合力」といったところだ。特に従来の金融機関では、「協調性」「内部調整力」のような対極の行動様式が重んじられていたこともあり、新たに評価されていくべき行動水準はしっかりと明文化して打ち出す必要がある。

そして④の「人材ポートフォリオへの落とし込み」だ。経営計画・要員計画と人材タイプとをリンクさせ、どのタイプが何人必要なのかを定量化する。これを目標値として、足元の要員数と目標値とのギャップを測定し、そこを埋めていくことになる。このステップは次回以降に解説していきたい。

一連の流れを通じてのポイントは、躍起になって「DX人材」を探しに行く前に、「自社が真に達成すべきことは何か?」「そのためにどのような人材が必要か?」を徹底的に自問することだ。そんなの当たり前のことだ、と思われるかもしれない。しかし、ここを見落としたまま五里霧中で「DX人材育成」に走ってしまうケースがいかに多いことか。

あるデジタル技術のスペシャリストが欲しいと考え、自社内で資格を取得させるなど育成投資をした結果、一定の水準に達した人材が増えた…しかし社内には、そもそもスペシャリストが活躍できる案件も、必要とされる現場もなかった。結局デジタル人材の使い道がなく、持て余している——そのようなたぐいの実話は尽きない。DXというある種のバズワードに踊らされず、まずは自社に必要な人材像を見つめ直さなくては、本末転倒である。

DXとは資格があればできる仕事ではない。そのためアマチュアと専門家の境目がわかりづらい。スキルは技術の進展とともに日々陳腐化していくし、実務家として実際に起きる問題を解決しながら、プロジェクトを成功に導いていくことができるかが問われる能力である。研修を受講し、資格を取得したことをもってDX人材の人数を達成することは終わりではなく、始まりである。すなわちこの人数に対して継続して学ぶ機会を提供し、機会を預けて、成果を出すためのサポートをしていく必要がある。「現在活躍しているDX人材の人数」こそ、注視すべき指標となる。

 

金融機関A社の例

それでは今回の最後に、国内金融機関の実例を見てみよう。A社は1年以上にわたって「DX人材」を採用してきたが、ジュニアクラスは採れてもリーダークラスの獲得に苦戦していた。採用した人材の見極めができずに要件を満たしていないこともあった。

まず人材の定義に着手することにしたが、A社本体の人材要件や制度設計にまで手をつけてしまうと、合意形成などに時間がかかることが見込まれた。そのためデジタル子会社の人材に対象を限定した。はじめに標準的な人材要件をたたき台として議論を始めたが、A社本体におけるビジネス・システム開発の進め方との違いが大きすぎて、検討に加わるメンバーからは「イメージがつかない」と困惑する声が多かった。

そこでA社本体の事業、開発プロセスをベースに整理しなおすことにした。精緻な制度を整える前に現状の人材にあてはめてアセスメントをしたことで、誰がどの人材タイプに該当するのか、具体的なイメージを持って精査を進めることができた。

ただしDX人材に欠かせないデザイナーだけは、これまでA社内に存在しなかった。アクセンチュアに在籍するデザイナーを招いて人材像や仕事のイメージを共有したところ、今のプロセスにおける創発レベルを上げることが想定できたため、デザイナーをA社に加えることになった。

あるべき理想像やビジネスの方向性に関しては、検討段階だと十分に詰められていないことも多い。一方でこれまで自社にいなかった人材については外部の人材を取り入れることができる。人事部門や検討メンバーがプロパー社員だけの場合、新たな人材の採用や必要な制度への観点が不足することがあり、金融以外からの人材確保を想定しているなら、そうした人材運用の経験者を獲得することも有効である。

A社の事例から言えることは、社内での納得感を十分醸成させて、今後運用していくことができる人材を定義することの大切さであり、DX人材の採用を「チェンジマネジメント」(組織変革を促す経営管理)の一環として捉える重要性である。

​

解決のカギ その1 求める人材像の「解像度」を上げる 

課題解決のカギは、求める人材を正しく定義し直すことだ。必要な「DX人材」は企業にとって千差万別である。人材像の解像度が低いまま、「何となくデジタルも変革もできるスーパーマン」を探している経営者は多いが、そのようなタレントはめったに存在しない。やみくもに(従来の枠組みで)優秀と評価されていた人材を選抜したり、漠然と「DX」のお題を掲げて現業と関連のない研修を導入したり、「デジタルラボ」と称して閉塞的な環境のみでトライさせたりといった手法でうまくいっている例は極めて少ない。

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1 2

関連キーワード

  • #フィンテック・DX
  • #人的資本経営
  • #ニュース解説
  • #アクセンチュア
次の記事
アクセンチュア式・金融DX人材の取説② DX人材に必要なスキルとは?(ケイパビリティの可視化)
2023.07.19

この連載の記事一覧

アクセンチュア式・金融DX人材の取説

真のDXによる変革の実現に向けて・従業員価値の定義

2024.04.05

DX人材をいかに活用するか?(社内活用、戦略との紐づけ)
「人材がジョブを生む」という逆転の発想

2023.12.07

DX人材をどう育てるか?(育成、認定、評価)

2023.11.07

金融各社の人的資本開示を読む 
社員研修に注力する伊予銀行、従業員エンゲージメントが高い大和証券Gなど
アクセンチュア式・金融DX人材の取説③(臨時特集)

2023.09.13

アクセンチュア式・金融DX人材の取説② DX人材に必要なスキルとは?(ケイパビリティの可視化)

2023.07.19

アクセンチュア式・金融DX人材の取説① DXはバズワードにあらず。各社で独自の定義を

2023.05.25

おすすめの記事

野村證券の人気ファンドはインデックスからアクティブへ? 「半導体」「純金」など投資対象を限定してリターンを狙う

finasee Pro 編集部

「投資信託で長期投資! エッセイ・コンクール」<実務者部門>結果発表!【2月13日「NISAの日」記念】

finasee Pro 編集部

プルデンシャル生命の組織に潜む歪み――彼らは「月のウサギ」を見上げなかったのか

文月つむぎ

SBI証券の売れ筋に変調? 純金価格の急落と米株物色の変化が「NASDAQ100ゴールドプラス」と「FANG+」を押し下げ

finasee Pro 編集部

マネックス証券の売れ筋で国内株は「ブル型」が快走、米株に「ゴールドプラス」もパフォーマンスで圧倒

finasee Pro 編集部

著者情報

堆 俊介
あくつ しゅんすけ
アクセンチュア オペレーションズ コンサルティング本部 マネジング・ディレクター
人材・組織の専門家として、金融機関を中心に人材戦略、組織設計、人事制度設計、人事業務改革等の深い知見を活かした多数のコンサルティング経験を有する。
この著者の記事一覧はこちら
深澤 胡桃
ふかさわ くるみ
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 人材・組織プラクティス マネジャー
戦略・改革構想に基づく新たな人材要件の定義、育成プログラム、オペレーティングモデルのデザイン・実現まで包括的なHRトランスフォーメーションを専門とする。
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
「投資信託で長期投資! エッセイ・コンクール」<実務者部門>結果発表!【2月13日「NISAの日」記念】
SBI証券の売れ筋に変調? 純金価格の急落と米株物色の変化が「NASDAQ100ゴールドプラス」と「FANG+」を押し下げ
野村證券の人気ファンドはインデックスからアクティブへ? 「半導体」「純金」など投資対象を限定してリターンを狙う
プルデンシャル生命の組織に潜む歪み――彼らは「月のウサギ」を見上げなかったのか
DCは本当に「儲からないビジネス」なのか? 業界活性化の糸口はカネではなく「情報」に?
多すぎる年金事務所を機構理事長が問題視 「このままで良いはずがない」と統廃合に意欲
「支店長! ノルマから解放されたいです!」
【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉘
2025年投信資金フローは、外国株式型が減速する一方でアロケーション運用のニーズ拡大
第17回:「高校無償化」で加速する家計教育資金の大移動!影響を受ける意外な業種とは?
曲がり角のIFAビジネス(1)多様化する収益源、信報低下圧力の中で持続可能なビジネスモデルとは?
「支店長! ノルマから解放されたいです!」
「投資信託で長期投資! エッセイ・コンクール」<実務者部門>結果発表!【2月13日「NISAの日」記念】
SBI証券の売れ筋に変調? 純金価格の急落と米株物色の変化が「NASDAQ100ゴールドプラス」と「FANG+」を押し下げ
マネックス証券の売れ筋で国内株は「ブル型」が快走、米株に「ゴールドプラス」もパフォーマンスで圧倒
【みさき透】高校の試験に「インベストメントチェーン」「顧客本位」の出題が?!こどもNISAで熱を帯びる金融教育と金融機関の関わり方

野村證券の人気ファンドはインデックスからアクティブへ? 「半導体」「純金」など投資対象を限定してリターンを狙う
第17回:「高校無償化」で加速する家計教育資金の大移動!影響を受ける意外な業種とは?
プルデンシャル生命の組織に潜む歪み――彼らは「月のウサギ」を見上げなかったのか
楽天証券の売れ筋上位の「オルカン」など主要インデックスファンドは3年連騰、「国内株」や「純金」に分散志向?
ファンドモニタリングは、どの指標を参照すればいいか
(6)まとめ
野村證券の売れ筋にみる2026年の活躍期待ファンド、「宇宙関連株」は「日経225」と「米国テック株」を上回るか?
「支店長! ノルマから解放されたいです!」
第17回:「高校無償化」で加速する家計教育資金の大移動!影響を受ける意外な業種とは?
「IFAエグゼクティブ・サーベイ2025」注目ポイントを一挙解説(1)――ビジネス戦略編
【みさき透】高校の試験に「インベストメントチェーン」「顧客本位」の出題が?!こどもNISAで熱を帯びる金融教育と金融機関の関わり方

中道改革連合「ジャパン・ファンド構想」の見過ごせないリスクと、実現に向けた論点
「IFAエグゼクティブ・サーベイ2025」注目ポイントを一挙解説(2)――コンプライアンス・ガバナンス編
ドコモショップが「投資の入口」に? マネックス証券と連携、1月29日から一部店舗スタッフがNISA口座開設や積み立てをサポート
「投資信託で長期投資! エッセイ・コンクール」<実務者部門>結果発表!【2月13日「NISAの日」記念】
【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉘
2025年投信資金フローは、外国株式型が減速する一方でアロケーション運用のニーズ拡大
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2026 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら