DCの加入者教育、現状と課題

加入者教育を提供する事業主はさらに複雑な心境かもしれません。「ますますDC教育を充実させないといけない」と考える人事担当者がいる一方で、「月数万円の掛金ではインパクトがなくて従業員の興味はひきにくい。教育予算も取れないから仕方ない」とぼやく方もいらっしゃるかもしれません。あるいは、「いやいや、うちは加入者教育にお金も時間も投入しているから、スコアは高くなるはずだ」という声もあるかもしれません。

日本の企業が、従業員にマネー教育を施すきっかけとなったのが、20年前に登場したDCです。これを皮切りに事業主による金融教育が始まりました。当時は「これから壮大な社会実験が始まる」とも言われました。

DC加入者教育の範囲は、公的年金制度の説明から始まって、DCの位置づけ、資産運用のイロハから金融商品の特徴、さらには税制まで、とにかくてんこ盛りです。はたして従業員が理解できるのか、という大きな疑問はそのままで、試行錯誤は今も続いています。また、DCだけで十分な老後資金が確保できるのかというと、そもそも拠出限度額が低いという制度面の課題も横たわります。

とはいえ、DCは従業員に老後の資産形成について勉強する機会を与えてくれました。この一点をとっても、DC導入の価値はあったと言えるでしょう。

一方、英米の職場教育は?

一方で、世界に目を向けると次のステージが始まっています。最近の英米での職域マネー教育は、これまでのようなDC一辺倒ではなくなってきているのです。もちろん、老後に向けた資産形成の重要性とその手法を教えることが、核心であることはそのままです。しかし、老後準備の一本足打法では、従業員の関心を惹きつけることは難しいということが理解され始めています。

例えば、米国では大学の授業料が非常に高額なので、多額の教育ローンを抱えたまま社会人になる若者が多くいます。彼らにとって最大のマネートピックは、老後資金をどう貯めるかではなくて、いかに早くローンを返し、その重圧から逃れるかにあります。

ローン返済のプレッシャーで仕事に集中できない従業員も多いようです。こんな状態では、生産性も上がりません。彼らに遥か未来の老後のために準備しましょう、と説いたところで響きませんし、自分ごとになりません。

職種や年齢、個人の境遇によってお金のニーズはさまざまです。そこで、どういう人がどういうことに関心を持っているかを丁寧に見分け、一番効果的な教育を施そうという動きが始まっています。言ってみれば、DC加入者教育を超えて、いわゆるフィナンシャル・ウェルネスの教育が始まっているわけです。