資産運用業界の常識が、世の中の常識に近付いてきた

これまで消費者の立場で金融審議会の委員を10年以上務め、現在も特別委員として複数の分科会のメンバーに名を連ねる永沢氏。「資産運用業界の常識が、少しずつ世の中の皆さんの常識に近付いてきている」と、ここ数年の変化を評価する。「10年くらい前は、お客さまと金融機関の利益相反の話をしても、全く理解されませんでした。しかし最近は、金融機関の皆さんのお話を聞いてみると、自社の利益だけでなく顧客の利益もどうやって追求していくのかを考えるところが確実に増えてきています」。

加えて、NISAやiDeCoといった制度の拡充もあり、長期、積立、分散投資を通した資産形成を後押しする環境は確実に整いつつあるという。「これまで『手数料の見える化』などが言われてきましたが、次のステップとしては、併せて金融機関の経営もガバナンスの視点を取り入れながら顧客に見えるようにしていかないといけない。そのためには、例えば社外取締役などの第三者に社内情報が遮断されないような体制を構築し、その意見も採用しながら『顧客本位の経営』を行っていく姿勢が求められるでしょう」。

市場ワーキング・グループが公表した報告書が発端となり、2000万円問題を巡ってさまざまな議論が巻き起こった2019年。結果として、多くの人が資産運用への関心を高めたのは間違いない。

重要情報シートは、早ければ来年早々にも金融機関で活用されるようになる見通しだが、ルール化されたわけではない。報告書で示されたのはあくまで大枠のみであり、今後は各業界が連携し、その方向性に沿ったシートの開発が進められることになるはずだ。いずれにしても、重要情報シートの導入が、個人投資家のメリットにつながることを期待したい。

永沢 裕美子(ながさわ・ゆみこ)氏 Foster Forum 良質な金融商品を育てる会 世話人 東京大学教育学部を卒業後、日興證券(現SMBC日興証券)に入社。アナリスト業務や資産運用業務などに従事後、Citibankに移り、個人投資部の立ち上げを担当。2006年にお茶の水女子大学大学院にて生活経済学を修了。早稲田大学法科大学院にて学び、2012年に法務博士。現在、金融審議会特別委員、国民生活センター紛争解決委員会特別委員、金融庁参事・金融行政モニター委員など幅広く活動している。