前編(「老後2000万円問題」の発端となった報告書、その最新版の狙いとは?)で紹介した重要情報シートのフォーマットには、顧客から金融機関の担当者に向けた質問例が記載されている点も大きな特徴だ。例えば、「この商品が、私の知識、経験、財産状況、ライフプラン、投資目的に照らして、ふさわしいという根拠は何か」「この商品を購入した場合、どのようなフォローアップを受けることができるのか」などの質問例が提示されている。

また、商品のリスクや費用については、「相対的にリスクが低い類似商品はあるのか。あればその商品について説明してほしい」「私がこの商品に〇〇万円を投資したら、それぞれのコストが実際にいくらかかるのか説明してほしい」「費用がより安い類似商品はあるか。あればその商品について説明してほしい」などの質問を例示。「私がこの商品を換金・解約するとき、具体的にどのような制限や不利益があるのかについて説明してほしい」といった、金融機関にとってはやや答えにくいとも思える質問例もある。

「実際に商品を購入する際には、『お客さまもこういう質問をしてみましょう』ということです。商品をより詳しく知るための、手がかりとなる質問ですね。質問例は、取引経験の豊富な方の体験談に基づいて作られています。銀行や証券会社などの販売会社は販売のプロではありますが、資産運用のプロというわけでは必ずしもありません。そのため、顧客に本当に合った商品を勧めることができるとは限らない。購入の場面で販売担当者の言いなりになるのではなく、主導権を顧客側が握るためにもこうした質問を積極的に行い、自分が求めている商品かどうかを見極める姿勢が求められるのです」(永沢氏)。

永沢 裕美子氏

一方で、重要情報シートの作成は、金融機関にとってコストや手間の増加に直結する。逆に言えば、そこにどれだけ力を入れているかが、本当に信頼できる金融機関なのかどうかの判断材料の1つにもなると永沢氏は強調する。「金融機関にとって負担になるのは事実ですが、だからこそ、差別化につながるという側面もあるはずです。しかも、その力の入れ具合がお客さまの目に見えるようになるわけですから、重要情報シートの有無、その内容が商品を選ぶ上での重要な基準になっていくのではないでしょうか」。

また、長期で寄り添ってくれる金融機関を選ぶという視点でも、この重要情報シートが大きな手助けになると永沢氏は続ける。「資産形成においては特に長期の運用が大切になりますから、あたかも『かかりつけ医』のように、金融機関と長いお付き合いをしていくのが理想です。金融機関側も資産形成の伴走者として、顧客に長く寄り添う姿勢を重要情報シートにも示して欲しいところです」。

さらには、重要情報シートを参考にしながら前述のような質問を行うことで、金融機関の担当者を「育てる」側面もあるという。「金融機関の担当者の質を向上させられるかどうかは、顧客次第だとすら言えるのかもしれません」。

個人投資家の金融リテラシーが向上すれば、販売側もそれに合わせて提案を変えたり、知識を身に付けたりといわば双方の成長が期待できる。その第一歩として、販売側の言いなりになるのではなく、まずは疑問点を質問する。そこで重要情報シートの質問例が役立つというわけだ。