新型コロナウイルス拡大の影響で、2020年2月のエンゲル係数が26.5%と、1986年の25.5%から34年ぶりに高い水準に跳ね上がった。

そもそもエンゲル係数を一言で言うと、家計全体の支出のうち、食費の割合を示した数値だ。食費には自炊で必要となる材料費だけでなく、外食費や自宅で飲むお酒なども含んで計算する。

ここで、ある疑問が浮かんでくるかもしれない。外出自粛による巣ごもりで、高額になりがちな外食の機会は減っているはずなのに「なぜエンゲル係数は上昇したのか?」という点だ。

エンゲル係数の変動が何を表すのか、さらには新型コロナウイルスの感染拡大でなぜ数値が上昇したのかを解説していきたい。

「エンゲルの法則」通りでないことも!? 多様な要因に影響されるエンゲル係数

まず、エンゲル係数がどういったものか、もう少し深掘りしていく。

前述の通り、エンゲル係数でわかることは、家計における支出のうち、食費が占める割合(%)だ。食費÷消費支出(所得税や社会保険料などを除く生活費)の計算で導き出すことができる。毎月の支出全体から見て、食費が多すぎていないかどうかを確かめる際に役立つ。

飲料や食料の購入費にあたる食費は、人間の生命維持に必要な消費のため、大きく削るといった節約が難しいとされている。そのためエンゲル係数が高い、つまり家計全体のなかで食費が占める割合が多いと、生活水準が低くなる傾向にあると言われる。なぜなら、家計全体で食費以外に回すお金の余裕がない(=分母が小さい)ことが予想されるため、自然とエンゲル係数が上昇するのが理由だ。

逆に所得が増えると家計全体に占める食費の割合は相対的に低下するため、エンゲル係数は下がると言われている。この傾向を「エンゲルの法則」と呼ぶ。

例えば終戦直後の日本は、収入も少ないうえに食料不足という問題を抱えていた。1946年当時の統計データではエンゲル係数は66.4%と、家計の半分以上を食費が占めていたということがわかる。その後、総務省の「家計調査」を見ると復興・高度経済成長期に合わせて、エンゲル係数は徐々に低下していった。

ただ、2000年代になると、エンゲル係数は徐々に下降から横ばいになっていく。すでに料理された食品を自宅で食べる中食(一般的に自炊より割高になることが多い)の浸透や、1989年に導入されて1997年に5%まで引き上げられた消費税が背景として考えられている。

また現在では、所得や物価の変化、前述のような消費税法といった社会的な要因もあり、必ずしも「貧しい世帯=エンゲル係数が高い」とは言い切れなくなっている。例えばエンゲル係数が急激に上がった2014年には、消費税が5%から8%へ引き上げられた。その結果、節約志向の高まりで外食の機会は減ったものの、値上げされた食品価格によってエンゲル係数が上昇したと言われている。

エンゲル係数の変動には収入やライフスタイルといった個々の家庭の事情だけではなく、消費増税といった社会事情など、一見すると家計とは直接関係がないように思われる要因も影響しているわけだ。

「買いだめ」や「消費先の制限」がエンゲル係数を上昇させた

2020年1月、国内初の新型コロナウイルス感染者が発表された。直後の2020年2月には「巣ごもり消費」とも呼ばれる消費行動で、外出自粛要請に備えた食料品の買い込みも行われた。食料品に費やすお金は当然多くなったのだから、エンゲル係数も急上昇したわけだ。

飲食店が売上低迷に悩むなか、スーパーなどの食料品を扱う店舗の売れ行きはむしろ良くなったと言える。

巣ごもり消費による買いだめで食料品全体の需要は自然と上がったため、特売などを通じて消費を促す必要はなくなった。さらに売場での感染を避ける目的で入店規制を実施した店舗も多く、結果として食料品の平均価格が上昇し、エンゲル係数も上がったと考えられている。

また、外出自粛要請によって自宅に居る機会が増え、レジャーや趣味などに費やすお金も減少した。消費先がスーパーでの買い物やネット通販などに限られたことも、エンゲル係数の上昇を促したと言われる。

職種によってはコロナ禍で収入が減少し、大幅な節約を強いられた家計もあるかもしれない。生活に必要な食費を維持しながらほかの支出を抑えた結果、エンゲル係数が上がらざるを得なくなったケースも考えられるだろう。

理想とされるエンゲル係数は20%程度、では投資は?

ここまでエンゲル係数が変動する要因を中心に紹介してきたが、理想的な値はどの程度なのか。

結論から言うと、20%程度だと言われている。つまり毎月の支出のうち1/5程度が食費だと理想的なわけだ。しかし、世帯人数や居住地域、ライフスタイルなど細かな条件によってエンゲル係数の目安は異なる。そのため世帯ごとに適切な目標値を見極める必要があり、あくまでも前述した20%という値は目安として考えておきたい。

ではエンゲル係数、つまりは毎月の支出に占める食費の目安が20%程度だとすると、貯蓄・投資の割合はどのくらいが理想なのか。

エンゲル係数の目安と同じように収入や運用目的、さらには現在の貯蓄額によって異なるものの、こちらも20%が理想とされている。さらにこの20%をどの程度リスク性資産(=投資)に回すかは、その人のリスク許容度や投資経験などでも変わる。

ちなみに、マネースクールを展開する「ファイナンシャルアカデミー」が行った調査によると、収入の20%以上を投資へ回す人は1年で100万円以上の資産増を実現している、という興味深いデータがあることも申し添えておきたい。

現在の生活費や資産状況、ライフプランなども考慮したうえで、今回紹介した食費の割合はもちろん、収入のうち何割を投資に向けるかもあわせて考えてみたい。

記事中に登場したデータはこちらからご覧になれます。 ●総務省の「家計調査 ●ファイナンシャルアカデミーの「貯蓄と投資に関する意識調査